2020年09月09日

「人数の町」独創的で刺激的、社会風刺も 毒のあるミステリー

1.jpg

 借金取りに追われ暴行を受けていた蒼山(中村倫也)は、黄色いつなぎ服を着たひげ面の男(山中聡)に助けられる。男は蒼山を「デュード」と呼び、居場所を用意するといい、たどり着いた先は奇妙な町だった。町の住人はつなぎ服を着た「チューター」たちに管理され、簡単な労働と引き換えに衣食住が保証されていた──。新たな才能発掘を目指す木下グループ新人監督賞の第1回準グランプリを映画化。荒木伸二監督の初長編。

 日本映画には珍しいミステリアスな作品だ。強いていえば高度成長期の1970年代、全盛期の筒井康隆の小説にありそうなブラックな物語。居場所をなくした若い男女がある町に集められ、ホテルのような個室を与えられる。彼ら「デュード」は、部屋でバイブルと呼ばれる書物を熟読。単純労働と快楽を与えられながら、時々に名もなき工作員として使われる。指示された内容をSNSに投稿したり、新薬の被験者となったり、事件現場で偽装被害者となったり、選挙で替え玉投票したり。デュード同士のフリーセックスも認められている。

2.jpg

 しかし、デュードたちは表向き「出るのも入るの自由」とされているが、実際には勝手に町から出られない。町に来た時、首の後ろに打たれる何かが行動を制限。町を離れようとすると不快な音が脳を攻撃し、逃げ出せないのだ。「西遊記」で孫悟空が頭に付けた頭の輪(きんこじ)が、三蔵法師の呪文で締め付けられるのに似ている。

 観客は主人公と同じ視点で住民の行動を追い、自問自答する。「私たちが暮らす町は、映画のようにコントロールされているのではないか」。ネガティブな想像をかきたてる手法は独創的だ。格差に貧困、SNSの悪質な書き込みなど、現代日本の闇が物語の根底に流れている。「デュード」は英語のスラングで「奴、野郎」を意味し、「チューター」は個人指導の教師や講師を指す。

3.jpg

 中盤以降、行方不明の妹を探しにきた虹子(石橋静河)が登場する。町にどっぷり浸かっていた蒼山が、町へ疑問を抱く虹子と出会い、考えを変えていく。蒼山の心情や内面が伝わりづらく、鍵となる性描写を曖昧にしたのが惜しい。中村と石橋が好演するほか、町の女王的な存在・緑を演じた立花恵理が、初映画で華やかなオーラを振りまく。名脇役・山中の存在感が物語を引き締める。独創的で刺激的、社会風刺も盛り込んだ毒のあるミステリーだ。

(文・藤枝正稔)

「人数の町」(2020年、日本)

監督:荒木伸二
出演:中村倫也、石橋静河、立花恵理、橋野純平、山中聡

2020年9月4日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://www.ninzunomachi.jp/

作品写真:(C)2020「人数の町」製作委員会

posted by 映画の森 at 15:31 | Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする