荒れた少年期に地元の親分・柴咲(舘ひろし)に手を差し伸べられ、父子の契りを結んだ男・山本(綾野剛)。ヤクザの世界でのし上がり、愛する自分の“家族”と出会う。しかし、暴対法の施行でヤクザの世界は一変。山本は因縁の敵と戦う一方、大切なものを失うことになる──。日本アカデミー賞を6部門受賞した「新聞記者」(19)の藤井道人監督新作。
題名が意味深だ。血縁関係のない親分子分は疑似家族のよう。子分は「親父」と呼び、親分も息子のようにかわいがる。家庭崩壊が問題になる昨今、ヤクザは本当の親子より強い絆で結ばれている。
1999年の地方都市。両親を亡くした山本は自暴自棄になり、糸が切れた凧のように荒れ狂っていた。売人から覚せい剤を横取りし、ヤクザの逆鱗に触れて半殺しの目にあうが、以前助けた親分・柴咲の名刺を持っていて命拾い。山本は柴咲と父子の契りを結び、極道に足を踏み入れる。
時は下って2005年。一本気で名を挙げた山本は、敵対する侠葉会の川山(駿河太郎)と格闘して負傷。手当てをしてくれたホステスの由香(尾野真千子)を気に入り、一方的に愛を求める。柴咲組と侠葉組の争いは激化し、川山刺殺事件に発展。山本は罪を引き受け、刑務所に14年間服役する。2019年。出所した山本が見たのは、社会で居場所を失い衰退したヤクザたちだった。
三つの時代を通してヤクザの生き様が描かれる。暴力団対策法施行(1992年)の数年後から話は始まる。ヤクザ映画の金字塔「仁義なき戦い」(73)のようなヒロイックな高揚感はない。細々と裏稼業を営む男。足を洗い新たな人生を歩もうとする者。幼少期に山本にかわいがられ半グレとなった少年。血縁を超えた絆の強さ、逆に血のつながった家族の苦悩。
綾野の役作りはアグレッシブだ。自暴自棄で弾けまくる19歳。男の色気が匂い立つ25歳。刑務所生活を経て枯れ果てた39歳。これに対し、受けの芝居に徹した舘ひろしがいい。舘のデビュー作「暴力教室」(76)や「男組 少年刑務所」(76)など東映作品で暴れまくった姿を見た身には、43年ぶりのヤクザ役、しかも親分とは感慨深い。
北村有起哉、市原隼人、駿河太郎、磯村優斗らもインパクトある好演。藤井監督は「デイアンドナイト」(19)で描いた善悪の境界にさらに踏み込んでいる。一歩引いた冷めた視線で現代社会を映したネオノワール作品といえる。
(文・藤枝正稔)
「ヤクザと家族 The Family」(2021年、日本)
監督:藤井道人
出演:綾野剛、舘ひろし、尾野真千子、北村有起哉、市原隼人、岩松了、豊原功補、寺島しのぶ
2021年1月29日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
https://www.yakuzatokazoku.com/
作品写真:(C)2021「ヤクザと家族 The Family」製作委員会