2021年03月17日

特集上映「映画で見る現代チベット」開催中 ペマ・ツェテン監督作など7作品上映

ラモとガベ.jpg

 チベット映画特集上映「映画で見る現代チベット」が、東京・岩波ホールで開催されている。「草原の河」(15)、「巡礼の約束」(18)のソンタルジャ監督最新作「ラモとガベ(原題)」(19)を日本初上映するほか、ペマ・ツェテン監督の「タルロ」(15)など7作品を一挙上映。同ホールで4月2日まで開催後、全国巡回上映される。

 最新作「羊飼いと風船」(19)が日本公開中のペマ・ツェテン監督作品は、劇場未公開の「タルロ」、「オールド・ドッグ」(11)を上映。ソンタルジャ監督は「ラモとガベ(原題)」、「巡礼の約束」、「草原の河」、「陽に灼けた道」(11、日本劇場未公開)の4作品。さらに、中国で約300万人を動員したチャン・ヤン監督のロードムービー「ラサへの歩き方 祈りの2400km」(15)も上映する。

タルロ.jpg

 3月13日にはソンタルジャ監督がオンラインで観客との質疑応答に参加。20日にはソンタルジャ監督作品の字幕を翻訳した松尾みゆき氏のトークショーも予定されている。

 主催の映画配給会社・ムヴィオラは「『失われていく伝統』や『共同体と個人』は現代チベット映画に欠かせないテーマ。さらに『日常を支えるチベット仏教』、『女性と子ども』などの切り口でチベット社会を見つめ、映画人と映画の歩みを考えたい」としている。

(文・遠海安)

チベット映画特集上映「映画で見る現代チベット」は4月2日(金)まで東京・岩波ホールで開催後、全国巡回上映。作品の詳細や上映スケジュールは公式サイトまで。

http://moviola.jp/tibet2021/?fbclid=IwAR1EzRff_usij0Afh31sDCWqw-6N-azf34HarXcIZhTKsvlkJBCYIP_NC1g

作品写真:
「ラモとガベ(原題)」(c)GARUDA FILM
「タルロ」(c)Mani Stone Pictures

posted by 映画の森 at 17:34 | Comment(0) | チベット | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年03月15日

「すくってごらん」左遷でどん底のエリート 金魚すくいで救われる人生

1.jpg

 東京から田舎へ左遷された大手銀行員・香芝誠(尾上松也)は、金魚すくい店を営む吉乃(百田夏菜子)と運命的に出会う。ネガティブ思考の香芝は心を閉ざし、仕事に専念しようとするが、吉乃が気になって仕方がない。しかし吉乃は幼なじみの王寺昇(柿澤勇人)を想い、ある秘密を抱えていた。一方、女優の夢破れて地元のカフェで働く明日香(石田ニコル)は、香芝に一目ぼれする──。

 大谷紀子原作の同名漫画を実写化で、監督は「ボクは坊さん。」(15)で劇場長編デビューした真壁幸紀。漫画の実写化映画には、原作の世界観を忠実に映像化した作品と、今回のように大胆に脚色した作品の二通りある。「すくってごらん」はミュージカルふうの歌とダンス、百田のピアノによる吉乃の感情表現など、実写ならではのアプローチがとられた。宣伝コピーに「新感覚ポップエンターテインメント」とある。

2.jpg

 歌舞伎界のホープ・尾上演じる香芝が、不似合いなスーツに眼鏡で田舎道に登場するシーンで映画は幕を開ける。道に迷った香芝は通りかかった親切な金魚売りの車に乗せられ、観客は香芝とともに不思議な世界に迷い込む。突然、心境を吐露するように歌い出す香芝。一筋縄ではいかぬ作品と匂わせ、攻めた演出が際立つ。

 目指す町に着いた香芝は、目に入った浴衣の美女の後を追う。着いた先は、浴衣の美女が踊る狭い通路。美女が走ったところに道ができ、金魚すくい店「紅燈屋」にたどり着く。「不思議な国のアリス」のような導入でドラマが始まり、演出は漫画の世界を越えていく。 

3.jpg

 金魚すくいの「すくい」を「救い」にかけたテーマが隠されている。エリートだった香芝が左遷で人生どん底となり、金魚すくいと町の人たちとの交流を通じ、ネガティブな自分を見つめ直し、前向きに歩き出す。凛々しい姿がテーマを象徴する。

 個性的なキャストもポイントだ。映画初主演の尾上は演技と歌で存在感を示し、映画初ヒロインの百田は大人の演技とピアノで「ももクロ」と違う一面を見せる。劇団四季出身の柿澤は歌、ダンス、ピアノと芸達者ぶりを披露。石田はギターの弾き語りとミュージカル経験を生かしている。監督はキャストの新たな一面を引き出しながら、歌やダンス、テロップを多用して「新感覚ポップエンターテインメント」に仕立てた。

(文・藤枝正稔)

「すくってごらん」(2021年、日本)

監督:真壁幸紀
出演:尾上松也、百田夏菜子、柿澤勇人、石田ニコル

2021年3月12日(金)、TOHOシネマズ日比谷ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://sukuttegoran.com/

作品写真:(C)2020映画「すくってごらん」製作委員会 (C)大谷紀子/講談社

posted by 映画の森 at 17:06 | Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

「ビバリウム」住宅地から出られない 着眼点が光る不条理スリラー

1.jpg

 新居を探す若いカップルのトム(ジェシー・アイゼンバーグ)とジェマ(イモージェン・プーツ)は、ふと足を踏み入れた不動産屋で、同じ家が立ち並ぶ住宅地「ヨンダー」を紹介される。内見を終えて帰ろうとすると、案内していた不動産屋が見当たらない。不安を感じて帰ろうと車を走らせるが、どこまで行っても景色は変わらず、住宅地から抜け出せなくなる──。

 「ソーシャル・ネットワーク」(10)のジェシー・アイゼンバーグと「グリーンルーム」(15)のイモージェン・ブーツが共演した不条理スリラー。監督はアイルランド出身のロルカン・フィネガン。ブーツは「第52回シッチェス・カタロニア国際映画祭」で最優秀女優賞を受賞した。

2.jpg

 幕開けはカッコウの托卵映像だ。ほかの鳥の巣に産卵し、ひなは宿主の卵を巣から落とし、宿主から餌をもらって育つ。意味深な映像に導かれてドラマが始まる。米ドラマ「トワイライト・ゾーン」、日本のドラマ「世にも奇妙な物語」に通じる奇妙な作風。着眼点が面白い。幸せの象徴とされる家族の「マイホーム探し」を逆手に取り、住宅ローンにとらわれる悲劇と考える。展開はどこまでも不条理だ。

3.jpg

 住宅地に閉じ込められた二人に、段ボール箱で男の赤ちゃんが届く。赤ちゃんはわずか98日間で7歳ぐらいに成長するが、ひと癖もふた癖にあるとんでもない子なのだ。二人が自分を育てて当たり前と考え、気に入らないことが起きると、超音波のような絶叫で抗議する。ものまねが得意で、二人の言葉や行動をコピー。扉越しに二人を監視し、夜な夜なテレビで不思議な動画を見る。脱出不能の住宅地と謎の男の子。二人は精神的に追い詰められ、トムは「地中に何かある」と玄関横で穴掘りを始める。

 「ビバリウム」の意味は「生存環境を再現した空間」。カッコウの托卵映像が暗示した通り、新興住宅地を再現した空間に若い二人が誘い込まれる。何者が地球侵略を計画しているのだが、その正体は描かれず、観客の判断に委ねられる。

 住宅地は日常の延長にあるように見えるものの、マグリットの絵画「光の帝国」に触発された人工的建造物に矛盾が見え隠れする。クライマックスの仕掛けは、最近見た作品では抜群の視覚的ショックだ。終わりのない不気味なドラマは独特の後味の悪さが残る。資本主義を皮肉ったブラックな味わいで、長く後を引く不条理スリラーだ。

(文・藤枝正稔)

「ビバリウム」(2019年、ベルギー・デンマーク・アイルランド)

監督:ロルカン・フィネガン
出演:イモージェン・プーツ、ジェシー・アイゼンバーグ、ジェシー・アイゼンバーグ、ジョナサン・アリス

2021年3月12日(金)、TOHOシネマズシャンテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://vivarium.jp/

作品写真:(C)Fantastic Films Ltd/Frakas Productions SPRL/Pingpong Film



posted by 映画の森 at 10:56 | Comment(0) | ベルギー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年03月06日

「野球少女」プロ野球選手になりたい 女子高生、不屈の挑戦

1.jpg

 天才少女がプロ球界で活躍する話ではない。手に汗握る熱戦が描かれるわけではない。ただ「プロ野球選手になりたい」女子高校生が、開かない扉をたたき続ける物語だ。

 韓国高校野球で20年ぶりの女子選手となり、「天才少女」と騒がれたチュ・スイン(イ・ジュヨン)。トライアウト(入団テスト)でプロ入りを目指すが、家計を支える母(ヨム・ヘラン)は就職を促し、野球部の監督も「女子野球で趣味として続けたほうがいい」と諭す。球速134キロの投球も、新たに赴任してきたコーチのチェ・ジンテ(イ・ジュニョク)に「通用しない」とこき下ろされる。

2.jpg

 先行きが見えないまま、黙々と練習を続けるスイン。手に血をにじませ深夜まで投げ込む姿に、最初は見下していたジンテは心動かされる。自分も一度はプロを夢見たものの、かなわず酒におぼれ、妻子に見放された過去があったからだ。「私の未来は誰にも分からない。私でさえ」と訴えるスインに、ジンテは秘策を思いつく。

 スインの熱意を、幼なじみでプロ指名を受けたチームメートのジョンホ(クァク・ドンヨン)が応援。頑なだった母も娘の熱意を認める。ジンテの奔走でトライアウト参加が許可され、スインは夢見たプロ挑戦のマウンドに立つ。

3.jpg

 日本でもヒットしたドラマ「梨泰院クラス」で、トランスジェンダーの調理師を演じたイ・ジュヨンが、再び偏見や理不尽と戦う役に挑んでいる。スインのモデルは1997年、韓国で女性で初めて高校野球部に所属し、プロ公式試合で登板したアン・ヒャンミ選手。イ・ジュヨンは40日間の特訓を受け、すべてのシーンをスタントなしで演じた。

 スインはただ、プロに「挑戦したい」だけだ。にもかかわらず、周囲の大人たちは次々と代替案を出してくる。「プロでは通用しない」「女子野球があるじゃないか」。スインの投球を評価した球団さえ「選手ではない別の道」を提案する。女性が男性と同じ土俵に立つには、これほど多くの壁がある。道のりの遠さに、少なくない女性が自分を重ね合わせ、心震わせるだろう。

(文・遠海安)

「野球少女」(2019年、韓国)

監督:チェ・ユンテ
出演:イ・ジュヨン 、イ・ジュニョク 、ヨム・ヘラン、ソン・ヨンギュ 

2021年3月5日(金)、TOHOシネマズ 日比谷ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://longride.jp/baseballgirl/
 
作品写真:(c) 2019 KOREAN FILM COUNCIL. ALL RIGHTS RESERVED

posted by 映画の森 at 16:07 | Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年03月02日

「あのこは貴族」格差を生きる女性二人 新たな出発を清々しく

1.jpg

 東京の上流家庭で成長し、「結婚=幸せ」と信じる華子(門脇麦)。20代後半で恋人にふられ、初めて人生の危機に立たされる。あらゆる手で相手を探した結果、良家出身のハンサム弁護士・幸一郎(高良健吾)との結婚が決まり、順風満帆と思えたが──。

 「アズミ・ハルコは行方不明」(16)、「ここは退屈迎えに来て」(18)の原作者・山内マリコの同名小説を、「グッド・ストライプス」(15)で新藤兼人賞金賞の岨手由貴子監督が映画化した。東京の箱入り娘と、大学中退の上京組が、一瞬交差して新たな人生を切り開く。

2.jpg

 お嬢様と庶民の落差を端的に描きながら物語は始まる。高級レストランから華子を乗せた個人タクシーの高齢運転手は、「私も行ってみたい」とうらやむが、華子は困って言葉を返せない。かみ合わない会話で変な空気が漂うタクシーが向かった場所は、家族がそろう正月恒例の食事会。華子は恋人を紹介するはずだったが、直前に恋人に振られていた。華子の新たな恋人を探す婚活が始まる。

 父から紹介された縁談、友達がセッティングした合コン。なかなかいい相手に巡り合えない中、義兄の紹介で弁護士の幸一郎と出会う。二人は愛をはぐくみ結婚が決定。しかし、眠る幸一郎のスマホに「美紀」という女から「私の充電器持って帰らなかった?」とメッセージが入り、華子の胸はざわつき始める。

3.jpg

 一方、富山出身の美紀(水原希子)は、苦労して名門大学に入学。付属学校から進学した内部生と地方出身の外部生の格差に苦しんでいる。ある日、講義ノートを強引に借りた内部生の幸一郎と知り合う。しかし、父の失業で学費が払えなくなり、キャバクラでアルバイト。気力が持たずに大学は中退したが、店に客で来た幸一郎と再会する。華子が見たスマホの名前は、幸一郎が都合のいい女としてつながり続けた美紀だった。

 生まれも育ちも違う二人の女性を通し、日本の格差が描かれる。地方出身者は東京育ちに憧れ、箱入り娘は上京組に憧れる。二人はないものねだりのように互いに憧れ、新しい生き方を見いだす。格差を飛び越え次のステージへ向かう姿は、清々しく凛々しい。

(文・藤枝正稔)

「あのこは貴族」(2021年、日本)

監督:岨手由貴子
出演:門脇麦、水原希子、高良健吾、石橋静河、山下リオ、高橋ひとみ、津嘉山正種、銀粉蝶

2021年2月26日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://anokohakizoku-movie.com/

作品写真:(C)山内マリコ/集英社・「あのこは貴族」製作委員会

posted by 映画の森 at 12:06 | Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする