
東京の上流家庭で成長し、「結婚=幸せ」と信じる華子(門脇麦)。20代後半で恋人にふられ、初めて人生の危機に立たされる。あらゆる手で相手を探した結果、良家出身のハンサム弁護士・幸一郎(高良健吾)との結婚が決まり、順風満帆と思えたが──。
「アズミ・ハルコは行方不明」(16)、「ここは退屈迎えに来て」(18)の原作者・山内マリコの同名小説を、「グッド・ストライプス」(15)で新藤兼人賞金賞の岨手由貴子監督が映画化した。東京の箱入り娘と、大学中退の上京組が、一瞬交差して新たな人生を切り開く。

お嬢様と庶民の落差を端的に描きながら物語は始まる。高級レストランから華子を乗せた個人タクシーの高齢運転手は、「私も行ってみたい」とうらやむが、華子は困って言葉を返せない。かみ合わない会話で変な空気が漂うタクシーが向かった場所は、家族がそろう正月恒例の食事会。華子は恋人を紹介するはずだったが、直前に恋人に振られていた。華子の新たな恋人を探す婚活が始まる。
父から紹介された縁談、友達がセッティングした合コン。なかなかいい相手に巡り合えない中、義兄の紹介で弁護士の幸一郎と出会う。二人は愛をはぐくみ結婚が決定。しかし、眠る幸一郎のスマホに「美紀」という女から「私の充電器持って帰らなかった?」とメッセージが入り、華子の胸はざわつき始める。

一方、富山出身の美紀(水原希子)は、苦労して名門大学に入学。付属学校から進学した内部生と地方出身の外部生の格差に苦しんでいる。ある日、講義ノートを強引に借りた内部生の幸一郎と知り合う。しかし、父の失業で学費が払えなくなり、キャバクラでアルバイト。気力が持たずに大学は中退したが、店に客で来た幸一郎と再会する。華子が見たスマホの名前は、幸一郎が都合のいい女としてつながり続けた美紀だった。
生まれも育ちも違う二人の女性を通し、日本の格差が描かれる。地方出身者は東京育ちに憧れ、箱入り娘は上京組に憧れる。二人はないものねだりのように互いに憧れ、新しい生き方を見いだす。格差を飛び越え次のステージへ向かう姿は、清々しく凛々しい。
(文・藤枝正稔)
「あのこは貴族」(2021年、日本)
監督:岨手由貴子
出演:門脇麦、水原希子、高良健吾、石橋静河、山下リオ、高橋ひとみ、津嘉山正種、銀粉蝶
2021年2月26日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
https://anokohakizoku-movie.com/
作品写真:(C)山内マリコ/集英社・「あのこは貴族」製作委員会