金正日(キム・ジョンイル)体制下の北朝鮮で、両親と暮らす幼い兄妹ヨハンとミヒ。1950年代から1984年まで続いた在日朝鮮人の帰還事業で家族は北朝鮮に渡ったが、父親が政治犯の疑いで逮捕。母子も強制収容所に連行される──。
北朝鮮の政治犯強制収容所で、過酷な毎日を生き抜く日系家族と仲間たちを3Dアニメーション描いた作品。ドキュメンタリー映画「happy しあわせを探すあなたへ」(12)を製作した清水ハン英治の初監督作品で、脚本とプロデュースも兼任している。
北朝鮮の内情を筆者はテレビのニュース番組で知るくらいだ。整然とビルが立ち並ぶ平壌の街並み、巨大兵器と軍人たちが機械のように歩く軍事パレード、一糸乱れぬマスゲーム。日本には対外向けの表面的な映像や情報が入ってくる一方、日本人拉致被害者と家族、強制収容所の存在も報道されてきた。
「トゥルーノース」は、監督が収容所を体験した脱北者、元看守などにインタビュー。10年かけて作り上げた。実写やドキュメンタリーなどリアル過ぎる表現を避け、あえて3Dアニメーションを選んだ。
作品で描かれる収容所の内情は想像を超えていた。政治犯は大人も子供も関係なく強制労働が強いられ、ヨハンは洞穴のような場所で穴掘りをさせられている。すべて人力の非人道的な奴隷労働だ。少年ヨハンは9年後、自分を守るため密告者となり一時自分を見失うが、ある出来事をきっかけに我に返る。
収容者への拷問、公開処刑、拉致被害者の存在など、北朝鮮が知られたくない真実を監督は真正面から描き告発する。3Dアニメは口当たりがいい映像表現だが、内容はかつてなくショッキングだ。
絶望的な世界で、ヨハンとイヒ、孤児インスが希望を捨てずしたたかに生きる姿に感動する。ディズニー長編アニメ「ムーラン」(98)の音楽を担当したマシュー・ワイルダーの力強いスコアが作品を彩り、日本の童謡「赤とんぼ」が胸にしみ入る。3Dアニメは子供向け、ファンタジー、娯楽作品相性がいいが、今回は実話の映像表現として新たな可能性を開拓した。北朝鮮が隠す真実と人権問題を鋭く切り込んでいる。
(文・藤枝正稔)
「トゥルーノース」(2020年、日本・インドネシア)
監督:清水ハン栄治
声の出演:ジョエル・サットン、マイケル・ササキ、ブランディン・ステニス、エミリー・ヘレス
2021年6月4日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
https://true-north.jp/
作品写真:(C)2020 sumimasen