2022年01月16日

「なん・なんだ」団塊男の残された時間 妻の「別の顔」を探す旅

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 結婚して40年になる三郎(下元史朗)と美智子(烏丸せつこ)。ある日、美智子が「文学講座に行く」と出かけて交通事故にあい、昏睡状態になる。三郎は途方に暮れる中、美智子の趣味だったカメラのフィルムを現像すると、見知らぬ男が写っていた。浮気相手の存在に困惑しつつ、三郎は娘の知美(和田光沙)と男探しの旅を始める──。

 高橋伴明監督の「襲われた女」(81)などピンク映画300本以上、劇場映画やVシネマにも約300本出演してきた名脇役・下元。「四季・奈津子」(80)、「駅 STATION」(81)などの烏丸。監督は2019年の第32回東京国際映画祭「東京スプラッシュ部門」で「テイクオーバーゾーン」(19)が上映された山嵜晋平だ。

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 三郎と美智子は団地住まい。シルバー世代夫婦のなにげない日常で幕を開ける。しかし、妻が外出後、警察から「ひき逃げで意識不明」と連絡が入り、物語は急に動き出す。病室で眠る美智子が残したフィルムには、知らない男がいた。妻への怒りと疑念が三郎を突き動かす。妻が疎遠にしていた実家に向かい、義姉・絹代(三島ゆり子)から男の手掛かりを聞き出そうとする。40年連れ添った妻の別の顔を探る旅が始まった。

 監督は10年ほど前、高齢男性の自殺を止めた経験から、「老いた人間の残された時間の生き方を描きたい」と考えるようになったという。昔気質の元大工・三郎は、気が短く、カッとなるとすぐ手が出る。妻の昔の交際相手の存在が気に入らず、老人同士の取っ組み合いを繰り広げる始末だ。自分の不甲斐なさを他人に向けて発散しているようにも見える。

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 タイトルの「なん・なんだ」は、三郎ら団塊世代の男たちの言葉だろう。人生の終わりが見えてくる中、予想外の事実、理不尽な世の中への率直な感情表現かもしれない。無骨な職人を演じた下元、夫と愛人の前で別の顔を見せる烏丸の色気。愛人を演じた佐野和弘は、咽頭がんで声帯を失っており、本人同様に声を失った医師を好演する。

 山嵜監督の演出はどこか無骨で、まるで三郎の性格のようだ。昨今のスマートなメジャー作品と一線を画し、観客の心に訴えかけてくる。シルバー世代に入ったベテラン俳優たちが、いぶし銀の力強い演技を見せる。老い、夫婦、家族について改めて考えさせられる作品だ。
 
(文・藤枝正稔)

「なん・なんだ」(2021年、日本)

監督:山嵜晋平
出演:下元史朗、烏丸せつこ、佐野和宏、和田光沙、吉岡睦雄、外波山文明、三島ゆり子

2022年1月15日(土)、新宿K's cinemaほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://nan-nanda.jp/

作品写真:(C)なん・なんだ製作運動体

posted by 映画の森 at 13:08 | Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする