2009年11月12日

“壁”越える恋と友情 ヤスミン・アフマド監督の遺作「タレンタイム」

「タレンタイム」_250.JPG

 学内オーディション“タレンタイム”に出場する高校生たちの恋、友情、家族愛を、爽やかなタッチで描いた青春群像劇「タレンタイム」。今年7月に惜しくも急逝したマレーシアの女性監督ヤスミン・アフマドの遺作となった作品である。

 主要な登場人物は4人。裕福でリベラルな家庭の娘で、英国の血が混じったマレー系のムルー(パメラ・チョン・ヴェン・ティーン)。末期がんの母を看病しながらも優秀な成績を修める、マレー系の男子生徒ハフィズ(ムハマド・シャフィー・ナスウィプ)。教育熱心なエリート家庭の息子で中華系のカホウ(ハワード・ホン・カホウ)。そして聴覚に障害を持つインド系の男子生徒マヘシ(マヘシュ・ジュガル・キショー)。

 優勝を争うのは、ムルーとハフィズとカホウの3人だ。ハフィズとカホウは2人ともムルーに恋心を抱いているライバル同士。オーディションには参加しないマヘシは、ムルーをスクーターで送迎する役目を受け持つが、彼も実はムルーに恋している。マヘシとムルーはスクーターの二人乗りを続けるうち、いつしか恋し合う仲となる。

 ところが、イスラム教のマレー系と、ヒンズー教のインド系との間で、恋愛や結婚はタブー。この抗い難い現実に、恋する二人がどう立ち向かっていくかが、映画の最大の焦点となっている。マヘシの叔父も、かつて異教徒の女性と恋に落ちた過去があった。しかし、家族から猛反対を受け交際をあきらめざるを得なかった。マヘシも叔父同様、“壁”を越えることはできないのだろうか。

 決勝当日。マヘシとの交際を禁じられたムルーは、苦しさに耐えかねて演奏を中断すると、ステージから下りてしまう。一方、母親を亡くしたばかりのハフィズは、悲しみを押し殺してステージに立つ。はたして栄冠は誰の手にわたるのだろうか。そして、ムルーとマヘシの恋の行方は?

 民族や宗教の問題は根が深い。リアリズムを貫けば重苦しい作品となるところを、ヤスミン監督はウィットやユーモアをたっぷりと交え、さらにはファンタジーまで加えることにより、爽やかで希望にあふれた作品に仕上げている。

 音楽を担当しているのは、「グブラ」(05)に楽曲を提供して以来、監督とコラボレーションを重ねてきた、ミュージシャンのピート・テオ。メインとして使われた「エンジェル」「ジャスト・ワン・ボーイ」をはじめ、印象的な楽曲の数々は、本作の大きな魅力の一つとなっている。

 それにしてもヤスミン・アフマド監督、享年51歳は若すぎる。

(文・沢宮亘理)

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「タレンタイム」(2009年、マレーシア)

監督:ヤスミン・アフマド
出演:マヘシュ・ジュガル・キショー、パメラ・チョン・ヴェン・ティーン、ムハマド・シャフィー・ナスウィプ、ハワード・ホン・カホウ、ジャクリン・ヴィクター

第22回東京国際映画祭 アジアの風部門出品作

作品写真(c)Primeworks Studios Sdn Bhd
posted by 映画の森 at 00:00 | Comment(0) | マレーシア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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