釜山国際映画祭のオープニングを飾ったのは、チャン・ジン監督の新作「グッドモーニング・プレジデント」。韓国の大統領3人の、人間らしい姿を描くコメディーだ。チャン・ドンゴンが大統領を演じることで話題が先行していたが、実際のできごとにヒントを得たエピソードがちりばめられ、チャン・ジン監督得意の社会風刺劇となっている。
登場する3人の大統領は、くじに高額当選したことから小市民的な悩みが始まるキム・ジョンホ(イ・スンジェ)、その後任で革新政党出身、シングルファーザーのチャ・ジウク(チャン・ドンゴン)、初の女性大統領となるが、夫との離婚問題が浮上し苦しむハン・ギョンジャ(コ・ドゥシム)。それぞれが抱える葛藤と苦悩を打ち明ける先は、青瓦台(大統領府)の厨房の料理人だ。
韓国では大統領はあらゆる実権を持つ最高権力者であるだけに、国民も特別な人間として見る。オープニングに先立って行われた記者会見でチャン・ジン監督は「権力者であっても理解したいという気持ちがあった。大統領も人間なんだということを伝えたかった」と話した。エピソードの中には日本と北朝鮮の対立、日韓首脳会談での対立、与党のあげ足を取る野党、ランチに酒を飲んで赤い顔で記者会見する党首など“どこかで見たシーン”や“ありそうなシーン”が満載。政治的な意図があったかどうかが気になるが、監督は「政権を批判したり揶揄(やゆ)するつもりはない。大統領にも苦悩や悲しみがあることを私たちは理解する、だから国のために力を尽くしてほしいという思いがあるだけ」と説明した。
4年ぶりのスクリーン復帰となるチャン・ドンゴンはコメディータッチの映画は初めて。「経験がないから、(自分の演じたものが)本当に笑えるのか、笑ってもらえるのか心配だった」と振り返った。これまでのシリアスな役では演技力が疑問視されたこともあったが、ベテラン俳優たちとの共演のおかげか、肩の力が抜けた楽しい演技を見せている。
大統領が3人というだけでも豪華だが、パク・ヘイルやコン・ヒョンジンなどスクリーンでおなじみの顔ぶれが脇を固めるのも見どころだ。特に女性大統領の夫役のイム・ハリョンが、男性優位社会における男女逆転現象の悲哀を好演している。韓国では今月22日に公開。
(文・芳賀恵、写真・岩渕弘美)
写真上:「グッドモーニング・プレジデント」の出演者。(左から)チャン・ドンゴン、コ・ドゥシム、イム・ハリョン、ハン・チェヨン=いずれも韓国・釜山で
写真下:会見でのチャン・ジン監督