2009年08月28日

「九月に降る風」 トム・リン監督に聞く

台湾青春映画の傑作 「役者たちが互いに起こす“化学反応”に留意した」

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 台北郊外の街、新竹を舞台に、9人の高校生の友情と恋、成長と喪失を、清新なタッチで描き出し、台湾で大ヒットを記録するとともに、数々の映画賞に輝いた青春映画の傑作「九月に降る風」。見どころの一つは、主人公を演じるリディアン・ヴォーンをはじめ、台湾映画界の次代を担う新人俳優たちの、火花を散らす演技合戦だ。トム・リン(林書宇)監督は、「役者たちが互いに引き起こす“化学反応”に留意してキャスティングした」と語った。

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 主なやり取りは次の通り。

  ――高校生たちを演じた9人のみずみずしい演技が心に残った。キャスティングにあたって重視した点は。

 ワークショップに時間をかけたかった。となると、多忙なアイドル俳優の起用は望めない。したがって、出演者はオーディションで選ぶことになった。1000人を超える応募者の一人ひとりと面接をして、最終的に選び出したのが、ご覧になった役者たちだ。選考には3カ月くらいかかったが、最も留意したのは、役者たちが互いに引き起こす“化学反応”だ。それぞれの役がぶつかり合うことで、どんなリアクションが生まれるか。この点にポイントをおいてキャスティングを行った。

 ――イェン役のリディアン・ヴォーンとタン役のチャン・チエなど、すごい化学反応が起きている。

 当初、チャン・チエには、イェンの同級生であるタンではなく、下級生であるチーションの役を想定していた。ところが、イェン役の候補だったリディアン・ヴォーンの演技を見るため、誰でもいいからタン役をやってもらう必要があり、たまたまチャン・チエに演じさせたところ、その2人の間に化学反応が生じた。「あっ」と思った。この感覚だ、とピンときた。それで急きょ、タン役はチャン・チエに変更した。

 ――日本のマンガのファンだと聞いている。特にあだち充の作品がお好きだとのことだが。

 あだち充先生のストーリーテリングの特徴は、あまり多くを語らず読者に考えさせる点にある。何が起きているかをあえて説明せずに、読者の想像力にゆだねる。あるいは人物の表情だけで、何が起きたかを察知させる。そんな表現手法は、僕の映画づくりにも影響を与えていると思う。

 この作品でいうと、たとえば、昼休みにタン以外の6人が屋上で食事をするシーン。教室に取り残されたタンが後から来て仲間に加わろうとするが、屋上への扉に鍵がかかっていて入れない。その後、ヤオシンが屋上から降りてくるのだが、彼がそこで見たのは、怒って立っているタンではなく、床に投げつけられた弁当だった。

 よけいな説明がなくても、それはタンが投げつけた弁当だということがわかる。ヤオシンには分からないかもしれないが、観客には分かる。こういう場面処理、描写の方法は、あだち先生がよく使っているものだ。

 ――昨年は「九月に降る風」とウェイ・ダーション監督の「海角七号」がヒットした。若手の映画監督が映画を撮りやすい環境が生まれつつあるのでは。

 台湾映画界をめぐる状況が好転したのは、すべて「海角七号」のおかげだと思う。確かに映画は作りやすくなった。しかし、観客動員数は必ずしも増えていない。今年に入ってから、多くの台湾映画が公開されたが、興行成績のよいものはあまりなかった。つまり、これは「海角七号」とは違うんだと、観客はすぐに見抜いてしまったわけだ。

 「海角七号」の成功によって、台湾映画に投資してみたい、次の「海角七号」に投資してみたいというプロデューサーはたくさん出てきた。ただし、これも一時的な現象に過ぎないのではないか。というのは、次の「海角七号」がいつ出てくるのか誰にもわからないからだ。しかも、それは計算の中から出てくるものではない。ヒット作というのは、誰も期待していないところから生まれるものだ。それは、多くの投資者の盲点となっている。彼らは、去年最も売れた作品の後追いをしたいと考えるのだが、そこが彼らの失敗している理由だ。

 ハリウッドの例を見てほしい。同じようなパターンの作品ばかり作って、失敗している。「海角七号」は、それまでの台湾映画にはない作品だったからヒットしたんだ。そこを間違えてはヒット作など生まれはしない。

 トム・リン(林書宇) 1976年、台湾生まれ。台湾と米国で育ち、高校時代は国立新竹実験中学で2カ国語の授業を受ける。世新大学映画科、カリフォルニア芸術大学映画・ビデオ科に学びながら、短編映画を製作。2005年に発表した短編「海岸巡視兵」で、台北国際映画祭作品賞を受賞するなど、国内外で高い評価を受ける。ツァイ・ミンリャン、チェン・ヨウチェ、ゼロ・チョウ監督の助監督を経て、「九月に降る風」で長編デビュー。

(文・沢宮亘理)

×××××

「九月に降る風」(2008年、台湾・香港)

監督:トム・リン(林書宇)
出演:リディアン・ヴォーン(鳳小岳)、チャン・チエ(張捷)、ワン・ポーチエ(王栢傑)、チウ・イーチェン(邱翊橙)

8月29日、ユーロスペース、シネマート新宿ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.9wind.jp/

写真上:漫画家・あだち充が好きというトム・リン監督。「何が起きているか説明せず、読者の想像力にゆだねる。人物の表情だけで察知させる。そんな表現手法は、僕の映画づくりにも影響を与えていると思う」と話す=東京都内で筆者撮影
写真下:主役のリディアン・ヴォーン(左)とチャン・チエ (C)2008 Mei Ah Entertainment Group
posted by 映画の森 at 00:00 | Comment(0) | 台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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