ドイツの小説家、ベルンハルト・シュリンクのベストセラー「朗読者」を、「リトル・ダンサー」のスティーヴン・ダルドリー監督が映画化した「愛を読むひと」。ヒロインを演じたケイト・ウィンスレットにオスカーをもたらした、珠玉のラブストーリーである。
1958年、ドイツ。15歳の少年・マイケルが恋をした。相手は急病で苦しんでいるところを助けてくれた、21歳も年上のハンナという女性だった。初心(うぶ)な少年と成熟した女性。二人は年齢差など気にもかけず、激しく愛し合った。やがて、マイケルはハンナにせがまれ、古典文学を朗読して聴かせるようになる。二人だけの充実した喜びにあふれた日々。しかし、ある日、ハンナはマイケルの前から突如として姿を消してしまう。
それから8年。大学の法科に通うマイケルが法廷で目にしたのは、被告として裁かれるハンナの姿だった。ハンナには誰にも言えない過去、そして知られたくない秘密があった。8年前の失踪は、その“言えない過去”にかかわるものだった。ハンナは、ナチの親衛隊メンバーで、ユダヤ人収容所の看守だったのだ。マイケルは初めて知る事実に愕然とする。
しかし、マイケルが真に動揺したのは、彼女の過去を知ったときではなく、彼女がひた隠しにしてきた秘密に気づいたときだった。その瞬間、マイケルは、なぜハンナがあれほど朗読を聞くことに執着したのかを理解する。もし、その秘密を口にすればハンナの罪は軽くなるはず。しかし、彼女は秘密を暴露するよりも、あえて重罪に服する道を選んだ。そんなハンナの気持ちを踏みにじることはできない。葛藤しながらも、マイケルは彼女の秘密を、そっと自分の胸にしまい込むのだった。
さらに時は流れた。マイケルは弁護士となり、結婚と離婚を経て独身生活を送っている。学生時代に獄中のハンナと面会する機会を逸したまま、今もハンナの存在は彼の人生に重くのしかかっていた。そこでマイケルはある決意をする。それはハンナのため、もう一度朗読を始めようというものだった――。
ハンナに恋い焦がれる若き日のマイケルを、ドイツの新鋭デヴィッド・クロスが好演。クラスメートの美少女には目もくれず、むさぼるようにハンナの体を求める一途な少年を、清々しく鮮やかに演じている。そんなマイケルの成長した姿を演じるのは、名優レイフ・ファインズ。一人の人間としてハンナを愛した自分と、弁護士として罪人のハンナを見つめる自分との相克に揺れる人間像を、抑制を利かせた演技で的確に表現している。
そして、やはり特筆すべきは、ハンナ役のケイト・ウィンスレット。前半では、少年との恋に情熱を燃やしながらも、どこか謎めいたところのある女性を見事に演じている。後半は、獄中でマイケルの“朗読”を聴き、学習する喜びに目覚めるとともに、改めて自分の罪と向かい合う女性を、淡々と演じている。
終盤のクライマックス。出所が決まり、ついにマイケルとの面会を果たす場面。壮年の域に達したマイケルを、昔のように「坊や(kid)」と呼ぶハンナ。しかし、もはや互いに昔日の面影はない。服を脱ぐのももどかしげに自分の体を求めてきた、あのマイケルはそこにはいない。何十年ぶりかで会ったのに、自分を抱きしめようとさえせずに、去っていくマイケル。後ろ姿を見送るハンナの何ともいえず孤独なたたずまいを、ウィンスレットは絶妙に演じて、見る者の胸を打つ。
簡潔で明快なストーリー運びと、過不足のない描写で、全編を文学的香気で包んだスティーヴン・ダルドリー監督の演出も素晴らしい。
(文・沢宮亘理)
×××××
「愛を読むひと」(2008年、米・独)
監督:スティーヴン・ダルドリー
出演:ケイト・ウィンスレット、レイフ・ファインズ、デヴィッド・クロス、レナ・オリン、ブルーノ・ガンツ、アレクサンドラ・マリア・ララ
6月19日、TOHOシネマズ スカラ座ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
http://www.aiyomu.com/



