一粒のさくらんぼが、母と娘を結ぶ糸となった──。中国・雲南省を舞台に、知的障害を持つ母と血のつながらない娘の絆を描く「さくらんぼ 母ときた道」。張加貝(チャン・ジャーベイ)監督は在日18年。日中の国境を越えたスタッフとともに、心温まる物語を作り上げた。
「さくらんぼ 母ときた道」は、チャン監督の長編3作目。張芸謀(チャン・イーモウ)監督の「初恋のきた道」(99)と同じ鮑十(パオ・シー)が脚本を担当し、緑豊かな雲南省でロケ撮影が行われた。
「中国の南部を舞台にしたかった。(パオ・シーとは)以前に日中映画シンポジウムで知り合い『いつか一緒に映画を撮りたいね』と話していた。母親役のモデルになったのは、彼が幼いころに接した知的障害があるおばあさんだ」
主人公の桜桃(イン・タオ)は、足の悪い夫と農村で暮らしている。イン・タオはある日、夜道で泣いている女の赤ん坊を見つけ、家に連れ帰る。赤ん坊は紅紅(ホンホン)と名付けられ、夫婦の子として育てられる。どこへ行くにも、何をするにも母の後をついて歩くホンホン。母が口に入れてくれるさくらんぼは、子供時代に幸せな思い出として、ホンホンの記憶に残っていく。イン・タオに扮した女優、苗圃(ミャオ・プゥ)の熱演が光る。
「私は18年前に来日して以降、中国の映画をあまり見ず、中国の女優もよく知らなかった。彼女が出演したドラマを見て、とてもよかったので起用した。彼女には『今までの演技は捨てて、自然のままに演じてほしい』と伝えた」
美しい少女に成長したホンホンは、ほかの家とは違う自分の母を、どこか疎ましく感じ始める。しかしある日、高熱を出して病院に運ばれ、再び“母のさくらんぼ”を口にする。脳裏に蘇る、温かく懐かしい母との記憶。なぜ、さくらんぼなのか。
「最初は何か果物をモチーフにしたい、と漠然と思っていた。中国の人々にとって、さくらんぼは身近な果物。いろいろ考えた末に決定した。オーディションは、なかなか大変だった。ホンホン役もまったくの素人で、演技経験はない。夫役の男性も同じだったが、とても意欲的だった」
夫役の二胡奏者、ホンホン役の少女……ミャオ・プゥを除く大半の出演者は、ロケ地の雲南省で探した。1000人を超える候補者から選ばれたホンホンは、素人とは思えぬ素晴らしい演技を見せている。
「今後も“人間”を撮りたい。ドキュメンタリーとフィクションの中間のような、文芸作品に挑戦したい。人間の真実を掘り起こすことができれば」
張加貝(チャン・ジャーベイ) 1957年、上海出身。北京第二外国語大学卒業後、中国映画人協会に所属。日本映画のシナリオ、監督研究、関連書籍の翻訳に携わった。90年に来日し、日本映画学校へ留学。川喜多記念映画文化財団で研究を続ける傍ら、今村昌平、新藤兼人監督らのもとで助監督を務めた。97年に監督デビュー後、03年に長編映画「歌舞伎町案内人」、06年に「陶器人形」を発表している。
写真:「さくらんぼ 母ときた道」のチャン・ジャーベイ監督=東京都内で9月上旬
(文・写真 遠海安)
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「さくらんぼ 母ときた道」(2007年、日本・中国)
監督:張加貝(チャン・ジャーベイ)
出演:苗圃(ミャオ・プゥ)
11月1日、銀座テアトルシネマほかで全国順次公開。
作品写真:(c)2008「さくらんぼ 母ときた道」製作委員会 上海電影集団公司 上海電影制片厂 四川騰竜影業有限公司



