病んだ心の隙間に悪霊が“憑依(ひょうい)=ボディ・ジャック”し、犯罪を繰り返させる。光岡史朗の処女小説「ボディ・ジャック」が映画化された。「自殺マニュアル」「最後の晩餐」「AKIBA」「真木栗ノ穴」など、社会的話題作を製作してきた倉谷宣緒の監督デビュー作だ。
1969年。学生運動の闘士・テツは、革命を起こそうと躍起になっていたが、志半ばで挫折。それから20年が過ぎ、テツは広告代理店のコピーライターとして生計を立てていた。若い日の挫折感をごまかすように酒にひたる日々。ところがある日を境に、酔っ払いや「独り言人間」が見えるようになる。青白い幽霊のような顔が、オーバーラップして見えるのだ。やがてテツは、自分が土佐弁を使う侍の霊に、ボディ・ジャック(憑依)されていることに気づく──。
「ボディ・ジャック」とは、嫉妬や情欲、怒りや悲しみに悪霊が憑依することを差す。無差別殺人や猟奇的犯罪は「悪霊にボディ・ジャックされた者が起こしている」という仮説に基づき、物語は展開する。約100年前の幕末期。「人斬り以蔵」こと岡田以蔵が、病んだ現代人の心をボディ・ジャックし、通り魔犯罪を起こしていた。彼の行動を阻止するため、以蔵の上司にあたる「半平太」こと武市瑞山が、主人公・テツの心をボディ・ジャック。以蔵の犯罪を止めさせようする……という奇想天外な物語だ。
「人斬り以蔵」は、病んだ人の心をボディ・ジャックして通り魔犯罪を起こす。しかし、映画の中でボディ・ジャックされた人物が犯罪を起こすシーンはない。報道の形で描かれるだけで緊迫感がない。テレビは「通り魔事件が頻発し、社会不安が高まっている」と言うが、屋外は至って平和。テツと学生運動にかかわった先輩・ヨシオカも、以蔵にボディ・ジャックされて逮捕されるが、逃亡してテツに会いに来るシーンには警察の姿がない。平穏な町をテツとヨシオカだけがコソコソ歩く。不自然極まりない。このアンバランスさが、映画をしまりのないものにしている。基本ストーリーと並行してテツの娘のストーカー騒動も描かれるが、ラストの大団円でうやむやにされてしまう。
倉谷監督は多くの状況を主人公にセリフで説明させてしまったり、時代設定を1969年の20年後、つまり1989年としているのに、パソコンのモニターが液晶だったり、DVDソフトが山積みになっていたりで、背景や小道具に気を使っていないのが気になる。情欲が強い者に憑く動物霊を、具体化した女性キャストの特殊メイク。クライマックスの半平太と以蔵のダイナミックな殺陣。霊界から来た坂本竜馬の霊が半平太と以蔵の仲裁に入るなど、見るべき点もあるが、ドラマから浮き立ってしまった印象だ。監督のイメージが先行してしまい、アレコレ詰め込んでみたが、どれもこれも中途半端になり、残念であった。
(文・藤枝正稔)
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「ボディ・ジャック」(2008年、日本)
監督:倉谷宣緒
出演:高橋和也、柴田光太郎、安藤希、星ようこ、重泉充香、小林且弥、内浦純一、吉満涼太、美保純(特別出演)、浜田学、笠兼三
10月25日、キネカ大森で公開。
作品写真:(c)2008 「ボディ・ジャック」製作委員会



