ハン・ソッキュ主演の「八月のクリスマス」(98)、イ・ヨンエとユ・ジテ主演の「春の日は過ぎゆく」(01)、ペ・ヨンジュン主演の「四月の雪」(05)と、叙情豊かな美しい映像で男女の愛を描いてきた韓国のホ・ジノ監督。東京で開催中の「韓流シネマ・フェスティバル2008 ラブ&ヒューマン」で新作「ハピネス」が上映されている。舞台挨拶とティーチイン(質疑応答)のため、3年ぶりに来日したホ・ジノ監督。東京・六本木で10月4日行ったインタビューで「とても近くにあるが、持続せずに常に動いている。幸せとはそういうものだと思う」と語った。
「ハピネス」は、都会の生活に疲れ、肝硬変を患った男・ヨンス(ファン・ジョンミン)と、療養所で暮らす病弱な女・ウニ(イム・スジョン)の出会いを通し、本当の幸せとは何かを問いかける。韓流ブームの先駆けとなった「八月のクリスマス」で長編デビュー。“恋愛映画の巨匠”と呼ばれるホ・ジノ監督が、映画、演出、俳優について語った。
主なやり取りは次の通り。
──主演二人の起用理由は。
今までの私の作品は“静”のイメージが強かった。今回は違った感じにしてみたかった。“動”の動きができる俳優が必要で、ファン・ジョンミンと一緒にやりたいと。イム・スジョンはデビューのころから知っていた。童顔で若く見えるが、会ってみると成熟した印象がある。ウニの持つはつらつとした部分、それと背中合わせの少し暗い部分、成熟した部分を持っていた。
──二人のキャスティング後、変更・追加した部分は。
ファン・ジョンミンは、映画「ユア・マイ・サンシャイン」で演じた田舎青年のイメージが強いが、会ってみると都会的な人。「ハピネス」で描かれる都会と田舎の両方のイメージに合っていた。ヨンスは当初もっと静かな人物だったが、ファン・ジョンミンをあてたことで、動きのある、積極的な部分が強く出た。ウニはイム・スジョンが演じることで、かわいらしい動きなども取り入れられ、愛らしい部分が出せた。
──「俳優に状況設定を伝え、後は任せる」演出スタイルと聞く。「四月の雪」で、ペ・ヨンジュンは「事前に役を作りこむ必要があり戸惑った」というが、今回も俳優の自主性に任せたのか。主演二人はどう演技に挑んだか。
今回も演出方法は以前と同じ。俳優に状況を与え、その中で演じる膳立てをした。ファン・ジョンミンはアイディア豊富な俳優。状況を与えるとアイデアを出しながら演じてくれる。ギターを弾き語るシーンも彼が現場で考えて動いた。イム・スジョンは完全に人物になりきるタイプ。ウニになりきって演じてくれた。
──「春の日は過ぎゆく」は録音技師、「八月のクリスマス」は写真技師と、監督の作品の主人公は技術者が多かった。ファン・ジョンミンの演じたヨンスは、これまでと違う俗っぽい人間。彼と田舎の純粋な女性との恋愛を描こうとしたのはなぜか。
今回はまず「男性が療養所に行く」ことを考えていた。きっかけとして「酒を飲んで快楽におぼれる生活をした結果、病気になって療養所に行く」のはどうかと思い、職業をカラオケ店の経営者にしてみた。
──刺激や情報の多い今の世の中、「本当に大切なものを見失い、気がついた時はなかった」話だ。監督にとって一番大切な「ハピネス」はどこにあるか。
幸せはとても近くにあるもの。しかし、とどまることなく動いている。一つの幸せは持続しない。持続せずに常に動いているが、近くにある。それが幸せだと思う。
──今回も最後に雪のシーンがある。これまでも雪を多く使ってきたが、意図的なことか。
今回の最後の雪は意図的に降らせた。ひとり寂しく療養所に戻るヨンスに、ウニのプレゼントとして雪が降った。彼の心の中にはウニの気持ちがあり、それを持って戻った……という印象にしたかった。
──前作「四月の雪」での来日時は、(ぺ・ヨンジュン人気で)大変な騒ぎになった。当時の経験をどう考えるか。
あんな大きなイベントには慣れていないし、もともと好きな方でもなかった。しかし、自分の映画を見てくれる観客と出会える機会と思い、楽しい経験ができた。
──今回は大規模ではなく、直接観客と対話できる。熱心なファンからの質問もあった。感想は。
3年ぶりに来日して直接観客と会い、上映後の客席を見たら「楽しんで映画を見てくれた」印象だった。質問を聞いても、映画に対する理解がとても深いと感じた。
──オダギリジョーや妻夫木聡など、最近日本の俳優が韓国の作品に出演する機会が増えた。一緒に仕事をしてみたい日本の俳優は。日本の小説や漫画で映画化したい作品はあるか。
今名前の挙がった二人とは仕事してみたい。オダギリジョーはいい演技をする。妻夫木聡は韓国でも知名度が高い。女優は「嫌われ松子の一生」の中谷美紀、蒼井優もいいな。小説や漫画はいいものがあれば。最近日本の小説や漫画も読むようにしている。
──恋愛映画を撮る上で大切にするものは。
大事にしている、というより悩む点は、男女が出会う時に誰もが持つ幸せな気持ちを、どう映画の中で表現したらいいかだ。
──「ハピネス」はエンディング曲からタイトルを取ったと聞いている。「春の日は過ぎゆく」でも、歌詞がタイトルに使われた。映画を作る上で音楽はどの程度重要か。
一本の映画は、何かを考えたり、企画するところからスタートする。スタート時に音楽や歌はとても大切な存在。ストーリーを引っ張っる柱のような役割だ。「春の日は過ぎゆく」も、実際に同じタイトルの歌がある。歌が持っている情緒的な面、感情の流れが柱になってくれたように思う。その柱を中心に家を建てるように、土台に物を積み上げるように作った。「ハピネス」も「幸せの国へ」という曲の歌詞がとてもよく、歌が持つ内面性、情緒的な部分を映画に生かした。
──次回作、今後の活動予定は。
何本かの話が同時に動いている。できるだけ早く次を撮りたい。恋愛もの、歴史もの、コメディーの話もある。どれになるか分からないが。
──最後に「ハピネス」を見る日本の観客に一言。
「ハピネス」という映画が、日本の皆さんと出会えることをとてもうれしく思っている。人間の滑稽な部分も描かれているが、愛の深さや悲しみ、さまざまな愛にまつわる感情が表現されている。その点を楽しんで観てほしい。応援をお願いします。ありがとうございました。
(文・岩渕弘美)
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「ハピネス」(2007年、韓国)
監督:ホ・ジノ
出演:ファン・ジョンミン、イム・スジョン、コン・ヒョジン
東京・シネマート六本木で開催中の「韓流シネマ・フェスティバル2008 ラブ&ヒューマン」で上映。
写真1:「韓流シネマ・フェスティバル2008 ラブ&ヒューマン」で、新作「ハピネス」が上映されるのに合わせて来日したホ・ジノ監督。上映後のティーチイン(質疑応答)で、観客の質問に答える=東京・六本木で10月3日
写真2:「八月のクリスマス」「春の日は過ぎゆく」など叙情豊かな恋愛表現が得意。日本での人気も高い=同10月4日、同
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