2008年10月08日

「ハロウィン」 ホラーの古典 ロブ・ゾンビ監督が新解釈

ハロウィン1_250.jpg

 ジョン・カーペンター監督の「ハロウィン」(78)は、スプラッター・ホラーの流れを作った古典的作品。続編7本が作られる人気シリーズになった。1作目の劇場公開から30年を経て、ロブ・ゾンビ監督の手によりリメイクされた。

 舞台は米イリノイ州ハドンフィールド。母と母の恋人、姉、妹と暮らすマイケルは、学校ではいじめられ、家庭でも愛されず、孤独に苦しんでいた。10月31日のハロウィンの夜、マイケルは母の恋人、姉と彼女の恋人を惨殺する。マイケルは精神病院に収容され、著名な小児行動学者・ルーミス医師の治療を受けることになる。

 監督のビジョンは明確である。オリジナルにはない部分に比重を置き、じっくりとマイケルの心の闇を描く。少年時代のマイケルは、自分の表情を隠すようにマスクをかぶって動物を虐待し、死んだ動物の写真を収集する少年だった。オリジナルでは姉だけ殺したマイケルだったが、今回は姉や姉の恋人まで殺す凶暴な少年として描かれる。マイケルの事件で追い詰められた母は拳銃自殺。残されたのはまだ赤ん坊のマイケルの妹だけである。これにはシリーズ2作目以降のマイケルと妹の関係解釈が含まれている。謎の多かった入院時代のマイケルもじっくり描かれる。院内でも人を殺し、誰とも話さず留置所に引きこもる。子供時代の面影を感じない大男に変貌を遂げ、黙々と大量のマスク作りに専念している。そして事件から17年後。ハロウィンの日を選び、マイケルは病院を脱走する。

 少年時代から脱走までにかなりの時間を割き、ある意味2部構成のような形をとっている。脱走したマイケルが作業服を奪う過程や、白いマスクの入手経緯も新解釈になっている。オリジナル版では脱走したマイケルが生まれ育ったハドンフィールドに舞い戻り、ベビーシッターの若者たちを殺害するエピソードがメインだった。今回はあっさり描かれ、2作目以降の設定となる「マイケルはなぜ妹のローリーを執拗に追い詰めるか」をメインにする。ショック演出もかなり過激だ。殺害時の心理状態を表すようにカメラは激しく揺れ、相手にとどめを刺すと小刻みな震えに変わっていく。殺した人間を部屋にデコレーションするのも、マイケルの特徴。死んだ人間を眺める時、首をかしげるしぐさも継承されている。善悪の区別の付けられない、狂った人間性を象徴するシーンである。

 ロブ・ゾンビ監督の「マーダー・ライド・ショー」(03)は、「悪魔のいけにえ」の現代版的解釈であった。今回もさりげなく「悪魔のいけにえ」にオマージュを捧げている。マイケルにとらわれた女性が一度、家の玄関から逃げ出すがすぐに家の中に引きずり戻されるシーン。ホラー・ファンならニヤリとしてしまうだろう。オリジナル版でテレビから流れる映画「遊星よりの物体X」(51)も健在。オールド・ファンとしてうれしい場面だ。

 ロブ・ゾンビ監督は、オリジナル版の行間を埋める発想だったのではないだろうか。カーペンター監督が描かなかった部分を補てんし、さらなるパワーアップを図った。少年時代を描くことで神秘性は失われたが、逆にマイケル・マイヤーズと言う人物の狂気を浮かび上がらせた。オリジナルとはまた違うベクトルの「ハロウィン」。ロブ・ゾンビ監督の並々ならぬ才能に圧倒された。

(文・藤枝正稔)

×××××

「ハロウィン」(2007年、米)

監督・脚本・製作:ロブ・ゾンビ
出演:マルコム・マグダウェル、ウィリアム・フォーサイス、ムーン・ゾンビ

10月25日、池袋シネマサンシャイン、お台場シネマメディアージュ。シアターN渋谷ほかで全国公開。

作品写真:(c)2007 The Weinstein Company,LLC.All rights reserved.
posted by 映画の森 at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 米国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック