
8月公開のイラン映画「ペルシャ猫を誰も知らない」のバフマン・ゴバディ監督=写真上=はこのほど、無許可撮影を問題視したイラン政府によるパスポート更新拒否を受け、来日を断念した。現在国外に滞在中のゴバディ監督は、日本へ向けたメッセージで「政府は帰国を求めているが、(戻れば)二度とイラン国外へ出られなくなる。(イランでは)素晴らしい才能を持つ若者たちが、厳しい状況のもと、わずかな機材だけで夢に向かって走っている。この映画はイランの若い世代の真実の声だ」と語った。
「ペルシャ猫を誰も知らない」=写真下=は、西洋文化の流入を規制するイランで、当局の目を逃れつつ、ロックやヒップホップに情熱を傾ける若者を追った青春群像劇。昨年のカンヌ国際映画祭「ある視点」部門で特別賞を受賞するなど、海外で高い評価を受けた。しかし、イラン政府の許可を得ずに撮影を敢行したため、ゴバディ監督や俳優は映画の完成後、国外へ逃れたという。
配給会社に届いたメッセージによると、ゴバディ監督は渡航のためのパスポートの査証(ビザ)ページ増補を申請したところ、すべての在外公館で「イランに戻らなければ発行しない」と拒否された。「私がイランに戻ることは、刑務所に入れられるか、二度とイランの外へ出られなくなることを意味する」として、来日を断念したことを表明した。さらに、現在イラクのクルド人地域に滞在しているとし、「ここを第二の母国として、新しい国籍のパスポートを得たい」と述べている。

イランでは映画製作のほか、音楽活動を行う際も政府の許可が必要。「ペルシャ猫を誰も知らない」は「実在の事件、場所、人物に基づいた物語」を撮るため、実際に無許可で活動するミュージシャンを起用。ゲリラ撮影を敢行した。ゴバディ監督は同作品について、「誰も気に止めなかった社会の一部の人々の声を聞いてもらいたかった。素晴らしい才能を持つ若者たちが、厳しい状況のもと、わずかな機材だけで夢に向かって走っている。この映画はイランの若い世代の真実の声だ」と説明している。
イラン政府は今年3月、「白い風船」「チャドルと生きる」「オフサイド・ガールズ」などで国際的に高い評価を得ているジャファル・パナヒ監督の身柄を拘束。5月のカンヌ国際映画祭で、審査委員長のティム・バートン監督、イランのアッバス・キアロスタミ監督が釈放を求める声明を発表するなど、映画関係者に対する厳しい締め付けが問題となっている。
ゴバディ監督は1968年、イラク国境に近いクルド人の町・バネーに生まれた。イランで初のクルド語長編映画「酔っぱらった馬の時間」で長編監督デビュー。同作品は2000年のカンヌ国際映画祭で、カメラドール(新人監督賞)と国際批評家連盟賞をダブル受賞する快挙を果たした。ほか監督作品に「わが故郷の歌」(01)、「亀も空を飛ぶ」(04)、「Half Moon」(06)など。
ゴバディ監督のメッセージは以下の通り。
親愛なる日本の皆様へ
「ペルシャ猫を誰も知らない」の日本公開を控えて、日本に行けないことがとても残念です。日本へ行くための私のパスポートは、査証ページがなくなっているため、再発行(増補)を在外のイラン大使館・領事館にお願いをしていました。しかし結局、どこのイラン大使館でも「イランに戻らなければ発行しない」という返事しかもらえませんでした。
今の私がイランに戻るということは、刑務所に入れられるか、二度とイランの外へ出られないかを意味しています。そのために今回は残念ですが、日本へ行くことをあきらめなくてはなりませんでした。
今、私はイラクのクルド人自治区にいます。そこを第二の母国として、新しい国籍のパスポートを得たいと思っています。そうすればまた旅ができるようになります。
また日本の皆さんに会えますように。日本での映画の公開が成功することを祈っています。
(文・遠海安)
「ペルシャ猫を誰も知らない」(2009年、イラン)
監督:バフマン・ゴバディ
出演:ネガル・シャガギ、アシュカン・クーシャンネジャード、ハメッド・ベーダード
8月、渋谷・ユーロスペースほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
http://persian-neko.com/