2010年10月29日

「ヤコブへの手紙」 盲目の牧師と元受刑者 闇を抜け 希望探る

「フィンランド映画祭2010」(10月30日〜11月5日)上映作品

ヤコブへの手紙.jpg

 終身刑に服しながら、模範囚として恩赦で出所したレイラは、ヤコブ牧師の家で働くことになった。片田舎で一人暮らす年老いた彼には、悩みある人々からの手紙が毎日届けられる。レイラの仕事は盲目の牧師のために手紙を読み、返事を書くことだ。手紙を楽しみにする牧師と、生きることに希望を持てず、いやいや仕事をこなすレイラ。そして突然現れたレイラに不信感を抱く郵便配達人。ある日、手紙がぷつりと来なくなり、牧師はすっかり気を落としてしまう──。

 「ヤコブへの手紙」は今年の米アカデミー賞外国語映画賞フィンランド代表作品に選ばれ、カイロ国際映画祭グランプリ・脚本賞など各国の映画祭で17の賞を受賞した。主な出演者は3人。舞台劇のような設定で、ヤコブ牧師の家と周辺で話は進行していく。身寄りのないレイラは、勧められるまま牧師の家に住み込む。レイラを温かく迎える牧師に、彼女はそっけない態度を取ってしまう。

 物語は多くを語らない。終身刑を受けていたことしか、観客はレイラの背景を知らない。太った体でふてぶてしい態度を取るレイラ。牧師はやせ細った盲目の老人で、観客はレイラに得体の知れない不安を感じる。パンを切るナイフを老人の目の前にちらつかせたり、配達人に悪態をついたり、牧師への手紙を勝手に捨ててしまったり。レイラを演じるカーリナ・ハザードの凄みも加わり、見えてこない彼女の本性に前半は不安がふくらみ、サスペンスに近い感覚さえ覚える。手紙で人々の悩みを聞くことを生きがいにしてきた牧師。しかしある日、勝手に家に入りこんだ配達人をレイラがとがめてから、手紙はピタリと来なくなってしまい、牧師は日に日に衰弱していく。

 謎だらけの物語だ。牧師に届けられるたくさんの手紙、手紙とともに送られてくる現金、牧師が現金をしまっている空き缶。どうやら謎の答えは、配達人が握っているようだ。善人そうな配達人であるが、勝手に牧師の家にあがりこむ。「心配だから様子を見に来た」という言葉とは裏腹に、空き缶から金は消え、配達人の自転車は新しくなっている。目の見えない牧師は、手紙の筆跡を知ることができない。レイラと配達人がいざこざを起こして以降、一切来なくなる手紙。手紙に現金が同封されていると知り、牧師が「お金が戻ってくるとは思わなかった」と言う場面。「長い間、手紙を送り続けてくる人もいる」と言い、文面を読んで送り主に気付く描写。配達人と牧師の間に暗黙の了解があったようにも読み取れる。

 手紙が来なくなり、生きがいを失った牧師が取る行動はとても宗教的だ。誰も来るはずのない礼拝堂で、新郎新婦を待つ牧師。目に見えない信仰に救われてきたはずなのに、信仰にとらわれ過ぎて、押しつぶされてしまう。同様に生きる目的を見出せないレイラは、自殺を図る。二人を救うのは、朽ち果てた建物の天井から落ちる雨漏りの水。宗教的な表現だ。神からの恵みとなる水に救われ、我に返るレイラと牧師は、初めて対等に向き合う──。

 信仰によって救う人と救われる人。フィンランドから送られてきた映画は、寓話の形を取りながら、人間の心の闇や弱さをミステリアスに描いている。全体的に暗くなりがちな物語であるが、希望の光を残した幕引きに救われた。

(文・藤枝正稔)

「ヤコブへの手紙」(2009年、フィンランド)

監督・脚本:クラウス・ハロ
出演:カーリナ・ハザード、ヘイッキ・ノウシアイネン、ユッカ・ケイノネン、エスコ・ロイネ

「フィンランド映画祭2010」(10月30日〜11月5日、恵比寿ガーデンシネマ)で上映。10月31日の上映では、クラウス・ハロ監督と観客の質疑応答も。2011年正月第2弾、銀座テアトルシネマほかで全国順次公開。作品の詳細は映画祭サイトまで。

http://eiga.ne.jp/finland-film-festival/
posted by 映画の森 at 12:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | フィンランド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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