
国際麻薬捜査隊員のボビー(スティーヴン・セガール)は、バルカン半島の銃・麻薬不正取引特別捜査班に配属された。同じ部隊に属するアクセル(ダーレン・シャラヴィ)とボビーのチームは、ロシアの銃密売人を調査中、ギャングとロシア人が通りで血まみれになり争う姿を目撃する。そこで最悪の事態が起こった。チームの一員が抗争に巻き込まれ、命を落としたのだ。怒りが極限に達したボビーは復讐を誓う。
日本独自の邦題“沈黙”シリーズで知られるスティーブン・セガール。最新作の「沈黙の復讐」は、セガール自身が脚本・製作も兼ねた40本目の主演作。ルーマニアのブカレストが舞台となるのは「沈黙の奪還」(06)以来で、監督は俳優、スタントマンとして活躍するラウロ・チャートランドだ。
「沈黙の復讐」は、構成にひとひねり効いている。オープニングに後半のクライマックス寸前を描き、2週間前にさかのぼって事件の概要を見せる。セガール演じる主人公は、作品によって名前や設定こそ違うものの、ほとんど同じ人物と言っても過言ではない。合気道、空手などの東洋武術にたけ、銃の腕もピカイチ。接近戦で戦闘能力を最大限に発揮する点は一貫している。近年のセガール作品はスタントマン多用で不満が募ったが、今回は本人がかなり素早い手業を駆使し、アクション・シーンを演じている。
絵の見せ方もとても現代的で、クイック&スローや静止画を意欲的に取り込んでいるが、アクションでのスローモーションを多用しすぎだ。過激な暴力描写をあえてゆっくり描き、美を追求するスローモーション演出は、サム・ペキンパー監督が生み出し、後に香港の呉宇森(ジョン・ウー)監督らにも大きな影響を与えた。スローモーション演出のうまい監督は、ここぞという重要なシーンで使う。しかし「沈黙の復讐」はアクションのどこもかしこもスローで、見ていて飽きてしまう。セガールのアクションを引き立てるためか、早い攻撃でダメージを与えられた敵役が、スローで倒れる。一連の動作がパターン化しており、静止画がアクションの流れを止めているようにすら感じる。
同じ犯人に相棒を殺されたボビー、妻を殺されたマフィアのボス・ディミトリが手を組み、悪の限りを尽くす武器商人を追い詰める。復讐劇風の展開が面白い。麻薬捜査官とマフィアのボスが、復讐という同じ目的で手を組み、互いの権力を最大限に利用して武器商人に鉄槌を下す。
セガールと敵役の一騎打ちは、常になぜか途中で銃を捨て、拳と拳の格闘になる。セガール作品の流儀であり、醍醐味でもある。「沈黙の復讐」は幕引きがうまかった。復讐=目的を達成したボビーとディミトリが、チェスのボードに向き合い、互いを賞賛して別れる。男と男の友情は、荒れ狂った潮のように、静かな余韻を残して幕を引く。
(文・藤枝正稔)
「沈黙の復讐」(2010年、米国)
監督:ラウロ・チャートランド
出演:スティーヴン・セガール、ダン・バダルー、ダーレン・シャラヴィ、D・ニール・マーク
12月11日、銀座シネパトスほかで全国公開。
作品写真:(c)2008 Stone House Productions, Inc.SEAGAL-SNIPES.jp