
日本での生活を夢見て、マレーシアの養豚場と食堂で働く少女。給料は微々たるものだ。もっと手早く大金を稼ぎたい。彼女は新しい仕事を紹介してもらう。それは男と性交渉を持ち、妊娠・出産する“赤ん坊製造業”だった――。
マレーシア映画界の新鋭、ウー・ジンミン監督が、実話をもとに撮り上げた「タイガー・ファクトリー」。マレーシアに巣食う闇(やみ)ビジネスの実態に肉薄した問題作だ。
少女のかかわる商売が、単なる売春ではないところがすごい。少女は、性の道具を通り越し、生殖の道具として使用されるのだ。養豚場の場面で、オス豚の精液をメス豚の性器内に注入する作業が仔細に描かれる。後にこのイメージが少女の“生殖行為”にオーバーラップし、はっと胸を突かれる。
少女は淡々とビジネスをこなす。「日本に行って働き、豊かな生活を手に入れたい」一心が、彼女を仕事に駆り立てる。ただし、彼女も年ごろの女性だ。生殖相手である一人の男に恋愛感情をいだく。彼女は彼に問いかける。「私があなたの奥さんと人に思われたい?」。しかしその後、彼女は大金と引き換えに男をあっさり警察に売ってしまう。
性交後、少女は、妊娠しやすいよう仰向けに寝て、足を高く上げるポーズをとる。他人に売るための子供を授かるため、最善を尽くす少女の姿は、ストイックでさえある。
カメラは、そんな少女の姿を、一切の感傷を排し、クールにドキュメンタリー風にとらえていく。最初は画面の中で何が起きているのかさえ判然としないが、時間がたつにつれ、事態が少しずつ明確な像を結んでいく。実際にその場に居合わせて、少女と同じ時間を過ごしているような臨場感を覚える。
アジアには、同じような境遇で、同じようなビジネスに手を染めている少女たちが多数存在するに違いない。冷徹なまでのリアリズムが、そんな過酷な現実への想像力をかきたてる。
(文・沢宮亘理)
「タイガー・ファクトリー」(2010年、マレーシア・日本)
監督:ウー・ミンジン
出演:ライ・ホイムン、パーリー・チュア
第23回東京国際映画祭 アジアの風部門 スペシャル・メンション受賞作品。
http://www.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=83
作品写真:(c)Greenlight Pictures (c)Kohei Ando Laboratory