もしも、愛する女性が凶悪犯に命を奪われたら、どうするか? 許されるなら、「悪魔を見た」の主人公のように、自ら犯人に立ち向かい、復讐を遂げたいと思うのではないだろうか――。
ある夜、車がパンクし立ち往生している女性に、一人の男が近付く。「タイヤを交換してあげましょうか」。しかし、女性は警戒を解かない。すると男は突然、窓ガラスを壊して襲いかかる。鈍器で殴られ、血まみれになる女性。「お腹に子供がいるの。助けて」。薄れる意識の中で命乞いする女性に表情一つ変えず、男は頭部に斧を振り下ろす。あまりのひどさに、思わず体が震える冒頭シーンである。
ジュヨンというその女性には婚約者がいた。国家情報院の捜査官、スヒョンである。スヒョンはジュヨンが犯罪に巻き込まれる直前まで、携帯電話で会話しており、異常に気づきながらなすすべがなかった。発見された婚約者のバラバラ死体を見て、スヒョンは誓う。「君の味わった苦しみを、犯人に倍にして返してやる」。スヒョンが復讐の鬼と化す瞬間だ。
スヒョンは容疑者のリストを入手すると、自力で犯人を特定する。犯人はギョンチョルという男で、連続猟奇殺人犯だった。スヒョンは、早速追跡を開始。新たな凶行に及ぼうとしているギョンチョルの前に姿を現すと、並外れた身体能力を発揮し、一方的に叩きのめす。しかし、スヒョンはとどめを刺さない。
「苦しみを倍にして返す」ためには、簡単に殺すわけにはいかないのだ。スヒョンはギョンチョルに制裁を加えては解放することを繰り返す。制裁は段階を追って残虐度を増していく。ギョンチョルが連続殺人鬼の仲間と合流すれば、仲間も血祭りに上げていく。
スヒョンは国家情報院の捜査官という設定。だから、圧倒的な強さがリアリティーを持つ。鍛え抜かれた肉体と卓越した格闘能力があればこそ可能な、復讐のシナリオというわけだ。殺人鬼VS復讐鬼の戦いは、一方的な形で決着するかに思われた。だが、スヒョンが犯した一つのミスをきっかけに、ギョンチョルは逃走から反撃に転じる――。
スヒョン役はイ・ビョンホン、ギョンチョル役はチェ・ミンシク。殺人鬼に彼ほどの適役はいないであろうチェ・ミンシクは、期待通りの好演。冷酷非情な演技で、これでもかと見る者の憎しみをかきたてる。
一方、チェ・ミンシクに対抗し、まったくひけをとらない存在感を見せるのが、復讐鬼に扮したイ・ビョンホンだ。悲しみと憎しみを心の奥に押し込め、冷徹に復讐を実行していく姿には、ストイックな美しさが漂う。方法がいかに残酷であろうと、感情移入してしまうだろう。
高評価を得た日本映画「告白」(10)と同様、主人公の復讐心は最後まで一瞬も揺らぐことはない。全編を通し、復讐の是非に疑問を投げかける野暮な視点とも無縁である。勧善懲悪の“懲悪”に焦点を当て、執拗かつ徹底的に悪を憎み通す姿勢こそ、作品が持つ比類なき迫力の源泉といえるだろう。
(文・沢宮亘理)
「悪魔を見た」(2010年、韓国)
監督:キム・ジウン
出演:イ・ビョンホン、チェ・ミンシク、オ・サナ
2月26日、丸の内ルーブルほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
http://isawthedevil.jp/
作品写真:(c)2010 PEPPERMINT & COMPANY CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.



