
帝政ロシアの支配下にあった19世紀のポーランド。若き作曲家、フレデリック・ショパン(ピョートル・アダムチク)は、ロシアに蹂躙(じゅうりん)される母国に心を痛めながら、自由な芸術活動を求めて出国を決意する。赴いたパリでは認められず、失意の底にいたが、ピアニストで作曲家のフランツ・リストのはからいでデビューし、たちまち貴族が集まるサロンの寵児となった。さらに男装の麗人の人気作家、ジョルジュ・サンド(ダヌタ・ステンカ)と出会う。彼女の愛のもと、ショパンはさらに音楽にのめりこむが、二人の関係は平穏なままではなかった。サンドの長男のモーリス(アダム・ヴォロノーヴィチ)と長女のソランジュ(ボジェナ・スタフーラ)が引き金となる悲劇。9年におよぶサンドとの日々は、ショパンの音楽そのものにも、変化をもたらしていく。監督はポーランド出身のイェジ・アントチャクだ。

昨年生誕200年を迎えた“ピアノの詩人”ショパン。39年の短い生涯のうち、サンドとの運命的な愛にスポットがあてられ、ショパンの名曲とともに物語は展開していく。ポーランドを逃れ、ウィーンを経て、パリに着いたショパン。認められずに渡米を考え始めた矢先、チャンスが訪れる。驚異の技術を持つリストが、ショパンのエチュードを見事に披露したのだ。ショパン自身も請われてピアノを弾くことになり、情感豊かな演奏で観客を魅了する。ショパンの才能は一夜でパリじゅうに知れ渡った。
ショパンとサンドの恋を描いた小説や映画は多いが、必ずしも実像をとらえているとはいえない。“究極のショパン映画”を目指したアントチャク監督。若き日を過ごしたワルシャワ、成功を収めたパリ、サンド一家と静養したスペイン・マヨルカ島、サンドと暮らしたフランスのノアン──ショパンが生活した場所で大規模なロケ撮影を行った。もう一人の主役ともいえるのは、ショパンが残した名曲だ。ピアノ協奏曲、協奏曲、室内楽曲など、ほぼすべてのジャンルから2年かけて曲を選んだという。

さらに、超一流の演奏家も集められた。世界を代表するチェリスト、ヨーヨー・マ。「ショパンの解釈では随一」といわれるピアニストの横山幸雄。映画「戦場のピアニスト」のサウンドトラック演奏で知られるポーランドのピアニスト、ヤーヌシュ・オレイニチャク。“21世紀で最も偉大”と称されるポーランド出身のピアニスト、エマニュエル・アックス。音の競演も見どころの一つだ。
病弱で芸術家肌のショパンと、男まさりで積極的なサンド。二人の関係はサンドの一方的な片思いに始まり、肺炎のショパンを看護したことで深まる。二人はショパンの療養のため、マヨルカ島にモーリスとソランジュを連れて旅立つ。しかし、温暖なはずの島は雨が続き病状は悪化してしまう。それからは冬はパリ、夏はサンドの別荘があるノアンで過ごすことに。母の愛を奪われたモーリスはライバル心を燃やし、ソランジュはショパンを愛するようになる。
繊細なショパンの旋律は、サンドとの愛で情熱的に育つ。芸術家の愛、憎しみ、別れ。ショパン入門者からベテランまで、納得の仕上がりであろう。
(文・藤枝正稔)
「ショパン 愛と哀しみの旋律」(2002年、ポーランド)
監督:イェジ・アントチャク
出演:ピョートル・アダムチク、ダヌタ・ステンカ、ボジェナ・スタフーラ、アダム・ヴォロノーヴィチ
音楽:チェロ=ヨーヨー・マ、ピアノ=ヤーヌシュ・オレイニチャク、横山幸雄
3月5日、シネスイッチ銀座ほかで公開。作品の詳細は公式サイトまで。
http://www.chopin-movie.com/
作品写真:(c) 2002, A Jerzy Antczak Production, All Rights Reserved.