2011年05月08日

「100,000年後の安全」 怪物を眠らせ続ける フィンランドの挑戦

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 原発は、事故さえ起きなければ安全なのか? 答えはノー。核分裂により発生する放射性廃棄物を完全に処分しない限り、放射能汚染の可能性は消えず、人命は脅かされ続ける。脅威から逃れるには、放射性廃棄物を地上から隔離してしまうしかない。たとえばロケットで太陽に打ち込むか、海底に沈めるか。しかし、打ち上げに失敗した場合の被害はあまりに甚大で、海底の安全にも保障はない。

 そこで考えられたのが、地中深くに埋めてしまう方法だ。固い岩盤を掘削し、数百メートルの深部に設けたスペースに、何重にもバリアをかけて放射性廃棄物を永久保管するもので、“地層処分”と呼ばれる。「100,000年後の安全」は、世界で初めて地層処分に着手したフィンランドの試みを紹介するドキュメンタリーである。

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 プロジェクトの名は「オンカロ」。フィンランド語で「隠れた場所」という意味だ。地下500メートル、全長数キロに及ぶトンネルの行きつく先には広大な貯蔵施設が建設される。完成は100年後の22世紀。気の長い話だが、長いのはその先である。放射性廃棄物の毒性が消滅するまでの10万年間、無傷で“冬眠”させ続けなくてはならないからだ。その間、地上ではさまざまなできごとが起こるだろう。戦争、気候変動、天変地異……。しかし、何が起ころうと、このモンスターの目を覚まさせてはいけないのだ。

 6万年後には氷河期が訪れ、人類は滅亡する。もし、その後に新人類が誕生して、「オンカロ」を発見したら? 彼らへの警告はどうするか。現在使用されている言語は通じないだろう。絵や記号を使うか。しかし、たとえ危険に気づいたとして、彼らが黙って引き下がる保証はあるのか。好奇心を刺激され、内部を暴こうとするのではないか。ならばむしろ、一切の情報は残さず、ひたすら発見されないことを祈るべきなのか――。

 映画の中心をなすのは、「オンカロ」にかかわった専門家たちによる、とりとめのない議論だ。そこには気の遠くなるような未来に生きる新人類への気遣いがある。自らが生み出した脅威に対して、全知を傾け、最善を尽くし、責任を取ろうとする真摯な姿勢がある。

 日本の原発関係者に、このような姿勢など望みようもないのだろうが、原発を使い続ける以上、廃棄物処理の問題は避けて通ることができない。世界屈指の地震国、日本で、フィンランドのようなオンカロの建設は、はたして可能なのだろうか。原発の現状、そして今後について、真剣な議論が求められるいま、すべての日本人に見てもらいたい作品である。

(文・沢宮亘理)

「100,000年後の安全」(2009年、デンマーク、フィンランド、スウェーデン、イタリア)

監督:マイケル・マドセン

渋谷アップリンク、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで公開中。全国で順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.uplink.co.jp/100000/
posted by 映画の森 at 08:36 | Comment(0) | TrackBack(0) | フィンランド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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