2011年10月06日

「アクシデント 意外」 “偶然は偽装できる” 妄想におびえ 自滅する殺し屋

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 人や車でごった返す香港の街。ビルの窓ガラスが割れ、落下した破片を頭から浴びた男が死亡した。偶然の事故のように見える。しかし、実は巧妙に仕組まれた計画殺人だった。犯人は、ブレイン(ルイス・クー)、太っちょ(ラム・シュー)、女(ミシェル・イエ)、おやじ(フォン・ツイファン)の4人グループ。闇の組織から指令を受けて、ターゲットとなる人物を“事故死”させるプロの殺し屋たちだ。

 完璧なトリックと、絶妙なチームワーク。彼らに死角はないはずだった。ところが、次の殺人を遂行中、予想外のアクシデントに見舞われる。仲間の一人である太っちょが“事故”に巻き込まれ、死亡してしまったのだ。しかも、同じその日に、ブレインはアパートの自室を何者かに荒らされてしまう。

 ブレインの胸に疑念が湧き上がる。太っちょの死は事故などではなく、殺人だったのではないか。プロの殺し屋がほかにも存在し、自分たちを狙っているのではないか。冷徹な殺人者の心に芽生える疑心暗鬼。焦燥が募り、妄想がふくらむ。さらに、かつて妻が自分の身代わりになって殺された事件の記憶が甦り、彼は精神的に追いつめられていく――。

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 殺し屋が別の殺し屋の影におびえ、自滅していくプロセスを描いた、異色のサスペンス「アクシデント 意外」。ガラス破片による殺人、電車の高架線を利用した感電死など、序盤のショッキングな描写を、まずは堪能してほしい。だが最大の焦点は、主人公であるブレインが平静を失い、錯乱し、過剰反応していく姿を、心理サスペンスとして展開した中盤以降だ。

 偶然は偽装できる。それを誰より知るがゆえに、あらゆる偶然を疑わずにはいられず、ブレインは偶然に翻弄されていく。いわば偶然をコントロールしてきたブレインが、今度は逆に偶然からコントロールされていく。その皮肉な状況の中で、冷徹な殺し屋の理性が狂い、常軌を逸していく様子が、緊迫感をもって描き出されており、一瞬たりとも画面から目が離せない。

 監督は「ドッグ・バイト・ドッグ」(06)のソイ・チェン。そしてプロデューサーとして参加しているのが、チェン監督の師匠にあたるジョニー・トーだ。タイトルとなった「アクシデント 意外」は、「ザ・ミッション 非情の掟」(99)、「エグザイル 絆」(06)など、ジョニー・トー監督作品を特徴づける重要なコンセプトの一つ。ジョニー・トーの強い影響が感じられ、トー監督のファンにとって見逃せない作品となっている。

(文・沢宮亘理)

「アクシデント 意外」(2009年、香港)

監督:鄭保瑞(ソイ・チェン)
出演:古天楽(ルイス・クー)、任賢斉(リッチー・レン)、葉璇(ミシェル・イエ)、馮淬帆(フォン・ツイファン)、林雪(ラム・シュー)

10月8日、新宿武蔵野館ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.accident-igai.net/

作品写真:(c)2009 Media Asia Films(BVI)Ltd.All Rights Reserved.
posted by 映画の森 at 10:26 | Comment(0) | TrackBack(0) | 香港 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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