吉祥寺に住む朝日奈くんは、役者の夢破れてバイト暮らし。彼の前に山田真野が現れた。上から読んでも下から読んでもヤマダマヤ。人妻で娘が一人。そんな彼女に恋をする──。原作は「百瀬、こっちを向いて」の中田永一。出演は「君へ」の桐山連、「私は猫ストーカー」の星野真理、「神様のカルテ」の要潤。映画やドラマの製作・演出もする加藤章一の長編劇映画初監督作品だ。
物語の幕開けは、加藤監督が担当したテレビドラマのような軽い語り口。喫茶店で働く真野に憧れる朝日奈がコメディー・タッチで描かれる。朝日奈と真野は、ある事件をきっかけに距離を縮め、店の外でも会うようになる。真野が子持ちの人妻と分かり、二人は一定の距離を保ちつつ、“恋人未満”を楽しむように。しかし、後半に大どんでん返しが待ち受ける。
表向きはさわやかな恋愛映画。実はちょっと怖い恋愛ドラマ。前半にそんな怖さをみじんも感じさせない手法がうまい。しかし、後半への伏線は随所に張られている。役者志望だったという朝日奈の経歴。やけに羽振りの良い哲雄先輩。居酒屋の客同士の会話。携帯電話の盗撮写真。変わったところでは、カップめんにお湯を入れて待っていると、必ず邪魔が入って食べられなくなるシーン。計画の失敗を予感させる描写だ。後から考えれば思い当たるが、進行中はまったく観客に気づかせない。うまい演出だ。
東京・吉祥寺での100%ロケを敢行。井の頭公園、井の頭自然文化園、サンロード商店街、ダイヤ街などの商店街、ハーモニカ横丁や名物ショップ、爆音上映で知られる映画館「バウスシアター」。吉祥寺の魅力があますところなく収められている。朝日奈と真野が、井の頭池を源にした神田川沿いを歩く。建物や柵にさえぎられ、遠回りしながら下流に向かう二人は、やがて行き止まりにぶち当たる。まるで朝日奈と真野の恋のように。
原作の良さをうまく引き出した日向朝子の脚本、テレビドラマで培った加藤監督の演出力。桐山連、星野真理、要潤の好演。そしてなにより、吉祥寺の街にこだわり、大風呂敷を広げずコンパクトにまとめたことが、成功の理由といえるだろう。男女の恨みつらみが尾を引きそうな話だが、朝日奈と真野に新たな恋の予感を残した幕引き。爽やかで心地よい余韻が残った。
(文・藤枝正稔)
「吉祥寺の朝日奈くん」(2011年、日本)
監督:加藤章一
出演:桐山漣、星野真里、要潤、柄本佑、田村愛
11月19日、吉祥寺バウスシアター、ユーロスペースほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
http://kichijojiasahina.jp
作品写真:(c)2011 Eiichi Nakata /『吉祥寺の朝日奈くん』製作委員会



