
中華民国初年。辛亥革命で清朝は倒れたものの、西洋の侵略や戦乱で国は乱れ、軍人が私利私欲の争いを繰り広げていた。部下に裏切られた一人の将軍が、最愛の娘を失ったことで少林寺に入門。人々を救おうと立ち上がった──。出演は劉達華(アンディ・ラウ)、謝霆鋒(ニコラス・ツェー)、成龍(ジャッキー・チェン)。監督は「ジェネックス・コップ」、「コネクテッド」の陳木勝(ベニー・チャン)だ。1982年、ジェット・リー(当時は李連杰=リー・リンチェイ)主演で製作されたカンフー映画の金字塔「少林寺」から29年。21世紀版はリメイクではなく、新たな人間ドラマとして完成した。実在の「少林寺」が初協力した作品だ。

戦乱で命を落とした兵士や民間人を、手厚く葬る少林寺の僧侶たち。そこへ寺に逃げ込んだ将軍を追い、軍人たちが乗り込んでくる。助けようとする僧侶たちの目の前で、命乞いを無視して撃ち殺すのが将軍・候杰(アンディ・ラウ)だ。無慈悲な軍人と弱者を救う僧侶の姿が、冒頭で対照的に描かれる。

そんな候杰にも大切な妻・願夕(範冰冰=ファン・ビンビン)と、愛してやまない一人娘の勝男がいた。候杰は義兄弟・宋虎将軍の息子と勝男の婚礼を利用し、戦利品を手に入れるため宋虎の暗殺を企てる。しかし暗殺計画は見抜かれ、腹心の曹蛮(ニコラス・ツェー)にも裏切られ、候杰は命を狙われる。妻と娘をかろうじて逃がすものの、娘は馬車にはねられ、重傷を負ってしまう。命からがら逃げた候杰は少林寺に駆け込むが、娘は命を落とす。
命乞いをする将軍を射殺し、義兄弟暗殺をたくらむ冷酷無残な候杰。やがて候杰は部下に裏切られ、娘を亡くし、お尋ね者になってしまう。軍人という特権階級にいた男が、奈落の底まで落ち、絶望の中寺に逃げ込む。しかし、かつて少林寺を冒とくした男に、僧侶たちは反発。候杰は行き場を失う。そんな候杰を救うのが、厨房係の梧道(ジャッキー・チェン)だ。出家の覚悟を決めた候杰は、梧道の前で髪を切り落とし、入門を申し出る──。


「少林寺」の世界観を重視しながら、裏切りと因縁の物語、アクションを両立。煩悩にまみれた候杰が、入門で悟りを開き、崇高な場所に導かれる。そんな候杰とは対照的に、悪に徹するキャラクターが曹蛮だ。クライマックスは曹蛮の軍隊が寺になだれ込み、僧侶たちと死闘。少林拳とワイヤー・アクションがミックスされ、ダイナミックに戦いが描かれる。僧侶たちは少林拳と「棍」と呼ばれる鉄棒で立ち向かうが、軍の銃器に圧倒され次々命を落とす。
“破壊の美学”を追求するチャン監督は、ロケ地に作った少林寺のセットも徹底的に壊す。尋常でない火薬と爆薬を使い、寺が倒れる姿をスローモーションを多用し映し出す。見るも無残な姿になった寺と無数の死体を見て、曹蛮はやっと自分の愚かさに気づく。僧侶たちが新天地を求めて旅立つ姿に、信仰を忘れた現代人へのメッセージを感じた。
(文・藤枝正稔)
「新少林寺 SHAOLIN」(2010年、香港・中国)
監督・製作:ベニー・チャン
出演:アンディ・ラウ、ニコラス・ツェー、ファン・ビンビン、ジャッキー・チェン
11月19日、TOHOシネマズ六本木ヒルズほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
http://shaolin-movie.jp/
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