ロシア人のエンマ(ティルダ・スウィントン)は、繊維業で成功したレッキ家のタンクレディ(ピッポ・デルボーノ)に見染められてイタリアに渡り、裕福な一族の妻、3人の子の母として何不自由ない生活を送っていた。家長のエドアルド(ガブリエーレ・フェルゼッティ)は、誕生日ディナーの席で後継者に息子のタンクレディと孫のエド(フラヴィオ・バレンティ)を指名。そこへエドの友人でシェフのアントニオ(エドアルド・ガブリエリーニ)がタルトを届けにきた。エンマとアントニオ、初めての出会いだった──。
出演は「フィクサー」、「ナルニア国物語」シリーズのティルダ・スウィントン。監督と製作はティルダに焦点をあてた短編ドキュメンタリー「Tilda Swinton The Love Factory」のルカ・グァダニーノだ。親友であるティルダとグァダニーノ監督、11年越しの企画。登場人物が着こなす美しいミラノ・ファッションは、今年の米アカデミー賞衣装デザイン部門にノミネートされた。
富豪のマダムと息子の友人の愛が、4つのパートに分けられ描かれる。雪降り積もるミラノのクリスマスで始まり、エンマがアントニオと再会する初夏、二人が結ばれる夏のサンレモ、悲劇が起こるロンドン、再びミラノで幕は引かれる。冬から夏に移り変わる季節は、息苦しい上流社会で凍りついたエンマの心を溶かし、開放されていくさまとリンクしているようだ。開放のきっかけは自立した若者。豪邸という鳥かごで生きるエンマは、野性味あふれる青年アントニオに引き寄せられる、しかも相手は息子の親友という禁断の果実。眠っていた女としての本能が蘇る。
ブルジョワ社会の大邸宅と使用人、美しいファッションと調度品。優雅な暮らしも心のすき間は埋められない。エンマの心を動かすアントニオとの再会を、監督はヒッチコックばりのサスペンス・タッチで描く。サンレモで見かけたアントニオを尾行するエンマの視点と、客観的に彼女の行動を追う別の視点が、スリリングに交差する。せりふを使わず、エンマの高ぶりを代弁するかのごとく、ジョン・アダムスのダイナミックなスコアが激しく鳴り響く。映像と音楽がシンクロしたような緊張感は特筆に値する。
ミラノの大邸宅で暮らすエンマと、サンレモの自然に暮らすアントニオ。アントニオと愛を交わした代償のように、運命はエンマの一番大切なものを奪い去る。失うものをなくしたエンマは自由の翼を羽ばたかせるため、すべてを脱ぎ捨て一人の女に戻っていく。
ルキノ・ヴィスコンティ監督的な様式美と、イタリア映画らしい官能を合わせ持つ柔軟な作風。料理や自然の風景を使い、エロティシズムを隠喩的に表現した演出力が冴える。ティルダの透明感あふれる容姿をうまく使い、心の色を失った女性が恋で色を取り戻すまでを描く。大胆なラブシーンも取り入れ、全編イタリア語のせりふでエンマになりきったティルダ渾身の1本である。
(文・藤枝正稔)
「ミラノ、愛に生きる」(2009年、イタリア)
監督:ルカ・グァダニーノ
出演:ティルダ・スウィントン、フラビオ・パレンティ、エドアルド・ガブリエリーニ、アルバ・ロルバケル、ピッポ・デルボーノ、マリア・パイアート、ガブリエル・フェルゼッティ、マリサ・ベレンソン、ディアーヌ・フレリ、ワリス・アルワリア
12月23日、渋谷Bunkamura ル・シネマほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
http://www.milano-ai.com/
作品写真:(C)2009 First Sun & Mikado Film. All Rights Reserved



