米国のあらゆる秘密を把握し、国さえ動かした男がいた。在任中の約50年間、入れ替わった大統領は8人。その誰もが恐れた彼こそ、米連邦捜査局(FBI)初代長官のジョン・エドガー・フーバーだ。フーバーを単に称えるのではなく、ジョン・エドガーという男の偉業と心の闇にスポットをあてる。よく知られた“フーバー長官”をタイトルに取らず、あえて「J・エドガー」とした点がポイントだろう。物語の始まりは1960年代前半。フーバーは回顧録作成のため、自らの足跡を語り始める──。
レオナルド・ディカプリオが、フーバーの二十代から七十代まで演じることが話題だ。クリント・イーストウッド監督も「よく知らなかった」というように、フーバーについて詳しく知る観客は少ないだろう。弱小組織だったFBIの改革に取り組み、科学捜査・指紋管理システムを確立。米事件史に深くかかわり、ギャング全盛期を代表する人物、マシンガン・ケリーを逮捕。同じくギャングのボス、ジョン・デリンジャー射殺を指揮したとされる。FBIを国を守る通称“Gメン”(Government Man)に仕立てた人物だ。
飛行家リンドバーグの愛児誘拐事件を、FBIが解決するエピソードが物語をけん引する。一方、謎に包まれたフーバーの私生活にもスポットが当てられる。母親を愛して独身を通し、片腕のクライド・トルソンとは相棒を越えた関係に。ホモセクシャルを匂わせる解釈、女装趣味、プロポーズを断られたヘレン(ナオミ・ワッツ)を秘書にして秘密を共存。人種差別主義者だったフーバーは、公民権運動指導者のキング牧師失脚を工作する。権力者の個人情報を集めた機密ファイル作成や、盗聴を頻繁に行っていた事実。趣味の競馬にまつわるマフィアと癒着する。
フーバーは現実と虚構をさまよう男にみえる。FBIを強大化し、偉業を成し遂げた顔。人々が思い描くFBIと自分の理想を具現化するため、虚構をさまよう顔。人に秘密を知られぬよう、鉄の信念を貫く男。
ディカプリオの役作りは相当なもの。太った老けメイクの奥から光る鋭い眼光、人を威圧するせりふ回しはさすがである。意外にうまいのが、相棒トルソンを演じたアーミー・ハマーだ。フーバーにぴたりと寄り添い、逆に嫉妬心から激しい感情をぶつける。老いた後の仕草や立ち居振る舞いは見るものがある。
(文・藤枝正稔)
「J・エドガー」(2011年、米国)
監督:クリント・イーストウッド
主演:レオナルド・ディカプリオ、ナオミ・ワッツ、アーミー・ハマー、ジョシュ・ルーカス、ジュディ・デンチ
1月28日、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
http://wwws.warnerbros.co.jp/hoover/
作品写真:(C)2011 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.



