
ベルギーの人気コミック「タンタンの冒険」。スティーブン・スピルバーグ監督が昨年、「タンタンの冒険 ユニコーン号の秘密」のタイトルで、3DCGアニメーション映画を製作した。「タンタンと私」は1971年、フランス人学生が行ったインタビューをもとに、タンタンの生みの親のエルジェ(本名:ジョルジュ・レミ)の人となりを浮かび上がらせる作品である。

エルジェへのインタビューは4日間、録音テープは14本に及んだ。30年間保管されたテープは状態が非常に悪く、クリーニングを繰り返して復元された。音源なので映像がない。監督は「観客が主人公に“出会う”決定的な瞬間、分かち合える瞬間」の重要性にこだわり、テレビ局が撮影したエルジェの映像をドローイング版画のような白黒画像に加工。1秒24コマの映像を3〜4コマに落とし、インタビュー音源とシンクロさせたという。映像は音源とぴったり重なり合い、まるで一緒に収録されたようで違和感はない。

エルジェが歩んだ人生と創作アイデア、「タンタン」の誕生秘話、戦争時代の苦労話が、インタビューを軸に時代ごとの「タンタン」シリーズと比較され、記録映像も絡めてつづられる。
作者の生い立ちから「タンタン」が生まれた経緯を、外堀を埋める形で語り、人物像を浮かび上がらせる。やがてインタビューテープは、エルジェの私的な部分に踏み込む。漫画を細部まで丁寧に描くことにこだわり、描くことにしばられ続けたエルジェ。精神を病んで失踪した話、自分のスタジオで働く女性との不倫、離婚。カトリック信者だったエルジェが、罪悪感から悩み苦しんだ話も明かされる。中国を舞台にした物語「青い蓮」を描く際、アドバイザーとして参加し、長く音信不通になった中国人青年の行方も追われる。

エルジェ自身が「しゃべりすぎてしまった」と言うだけに、学生相手で警戒を緩めたのだろう。インタビュー内容は数年がかりで1冊の本になったそうだが、本人が大幅に手を入れたため、本来の内容と違うものになったという。それだけに今回のインタビュー音源は貴重。「タンタンの冒険 ユニコーン号の秘密」で興味を持った人はもちろん、コアなファンにも「タンタンの世界」をひも解く作品となるだろう。
(文・藤枝正稔)
「タンタンと私」(2003年、デンマーク・ベルギー・フランス・スイス・スウェーデン)
監督・脚本:アンダース・オステルガルド
出演:ジョルジュ・レミ、ヌマ・サドゥール、マイケル・ファー、アンディ・ウォーホル、ファニー・ロドウェル
2月4日、渋谷アップリンク、銀座テアトルシネマ、新宿K'sシネマほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
作品写真:(C)HERGE/MOULINSART2011 (c)2011 Angel Production, Moulinsart