
紀元689年、唐の時代。中国史上初の女帝誕生を前に、奇怪な殺人事件が続発する。いずれも突如として人体が炎上し、全身が焼き尽くされ、残るは灰と骸骨のみ。すさまじい死に方だった。犠牲者は政権の中枢を担う要人ばかり。則天武后(カリーナ・ラウ)の即位を阻もうとする反逆者の仕業であることに、疑いの余地はなかった。犯人は誰なのか? 殺害のトリックは? 武后は、かつて自分に逆らった罪で入獄した判事ディー(アンディ・ラウ)を解放し、事件の解明に当たらせる――。
ツイ・ハーク監督が久々に手がけた武侠映画「王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件」。目を射るスペクタクル、洗練をきわめたワイヤーアクション、俊敏かつ的確なカット割り、縦横無尽のカメラワーク。これぞツイ・ハークというべき、映画の面白さにあふれた、極上のエンターテインメントに仕上がっている。

まず目を奪うのが、武后の権力の象徴として建設中の仏塔“通天仏”だ。途方もない巨大建築物を、実物大のセットで組まれた内側から見せる映像は圧巻の一語。堂々たる造形と絢爛たる色彩にため息が出る。
もちろん最大の見どころは、アクション・シーンだ。並外れた頭脳の持ち主である判事ディーは、武術の達人でもある。ディーの監視を命じられる美女チンアル(リー・ビンビン)、補佐役の司法官ペイ(ダン・チャオ)も、卓越した武芸者。凄腕の3人が、捜査を妨害する刺客たち相手に繰り広げるバトルの激しさ、美しさは、ツイ・ハークならではと言える。特に通天仏内で演じられる決闘シーンのクライマックスは素晴らしい。

キャストも豪華だ。主役のアンディ・ラウ、事件の鍵を握るシャトーに扮したレオン・カーフェイ、則天武后役のカリーナ・ラウ、そしてリー・ビンビン、ダン・チャオ。それぞれがスターのオーラを放ち、スクリーンに色艶を与えている。
また、繰り出される超人的な技と術、政府転覆の陰謀、建築物への細工といった要素からは、横山光輝の忍者漫画「伊賀の影丸」を想起させられた。しかし、残念ながら日本にはこのような映像作品を作れる映画人は見当たらない。アクション映画というジャンルにおける香港映画の優位を改めて思い知らされる1本。
(文・沢宮亘理)
「王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件」(2010年、中国・香港)
監督:ツイ・ハーク
出演:アンディ・ラウ、リー・ビンビン、ダン・チャオ、レオン・カーフェイ、カリーナ・ラウ
5月5日、シネマート新宿ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
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