
国際テロを未然に防ぐ組織、外事警察。ある日、「朝鮮半島から濃縮ウランが流出した」と情報が入る。同時期に軍事機密データも消え、日本で核テロが起きる可能性が高まった。“公安の魔物”と呼ばれる住本(渡部篤郎)ほか外事四課は、日本に潜伏する工作員らしき男“奥田正秀”に目をつけ、妻の果織(真木よう子)を“協力者=スパイ”として取り込むと決めた。徹底的な調査で弱味を握り、精神的な揺さぶりをかける住本。ついに果織はスパイになると決意。夫を裏切る罪悪感を抱きながら、深夜のオフィスに忍び込む──。
2009年に出版された麻生幾の小説「外事警察」は、同年NHKでテレビドラマ(1話60分・全6話)化された。本作はその続編で、11年出版の「外事警察 CODE:ジャスミン」を原案としている。監督は日本買収を描いたドラマ「ハゲタカ」、ドラマ版「外事警察」を演出した堀切園健太郎。キャストも渡部篤郎ほか、ドラマ版出演者が続投している。

濃縮ウラン流出情報が入ったところへ、外事警察から追放された住本が呼び戻される。外事四課は捜査線上に浮上した「奥田交易」の奥田正秀社長を調べ始める。工作員の疑いがある奥田の生活を調査するため、奥田交易付近に拠点を設置。24時間体制で監視を始める。
キーパーソンは奥田と妻の果織だ。外事は奥田に最も近い果織のすべてを調べ上げる。果織には消息不明の両親がおり、多額の借金を抱えているうえ、5歳になっても言葉を発しない娘に悩み、借金返済のため偽装結婚の疑いがあった。外事は果織の抱える弱みを巧みに利用。松沢(尾野真千子)を近づかせ、心の隙に入り込み、民間人スパイに仕立て上げる。果織は作中唯一の民間人だが、黒に近いグレーな人間関係と経歴が、まんまと利用され巻き込まれる。精神的に追い詰められ、外事に使い倒される果織。、押し殺した感情、激しい感情がせめぎあう難役を、真木よう子がエキセントリックに演じる。

テレビ版からスケールアップした映画版は、舞台を韓国へ拡大。キャストも韓国から「男たちの挽歌 A BETTER TOMORROW」のキム・ガンウらを招いている。しかし、テレビ版の延長線として作られているため、人物設定や背景が省かれ、やや分かりづらく感じる。人々には存在が隠された外事警察を描くため、透明な存在となった各キャラクターに感情移入がしにくい。しかし逆に見れば、俳優たちがプロに徹して演じたあかしなのだろう。
クライマックスの住本の単独行動は若干描写が飛躍し過ぎだが、リアリティーを追求し、闇に潜む犯罪をあぶりだした作家たちの努力を感じる。エンターテインメント作品とは遠く渋い仕上がりとなっている。
(文・藤枝正稔)
「外事警察 その男に騙されるな」(2012年、日本)
監督:堀切園健太郎
出演:渡部篤郎、キム・ガンウ、真木よう子、尾野真千子、田中泯、イム・ヒョンジュン、北見敏之、滝藤賢一、渋川清彦、山本浩司、豊嶋花、イ・ギョンヨン、キム・ウンス、パク・ウォンサン、遠藤憲一、余貴美子、石橋凌
6月2日、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
http://gaiji-movie.jp/
作品写真:(C)2012「外事警察」製作委員会