2012年07月21日

「ローマ法王の休日」 世紀の瞬間めぐる 風刺的な悲喜劇

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 ローマ法王、死去。一大事を受け、バチカンで法王選挙(コンクラーヴェ)が開催される。サン・ピエトロ広場には民衆が集まり、世紀の瞬間を心待ちにしている。一方、投票会場のシスティーナ礼拝堂に集められた各国の枢機卿たちはみな必死に祈っていた。「神様、お願いです。どうか私が選ばれませんように」。祈りもむなしく新法王に選ばれたのは、誰も予想しなかったダークホースのメルヴィルだった。新法王は早速バルコニーで大観衆を前に演説しなければならない。だが、内気な彼はプレッシャーに押しつぶされ、ローマの街に逃げてしまう──。

 「息子の部屋」(01)のナンニ・モレッティが監督、脚本、出演した悲喜劇だ。ロン・ハワード監督の「天使と悪魔」(09)も法王選挙をキーワードにしたサスペンスだった。「ローマ法王の休日」は、楽しそうな題名と裏腹に、権威ある職を前に悩み苦しむ枢機卿が描かれる。メルヴィルを演じるのはミシェル・ピッコリ。「ロシュフォールの恋人たち」、「昼顔」、「五月のミル」、「美しき諍い女」など多くの名作で存在感を残した86歳の名優だ。

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 映画は広場で行われる前法王の葬儀で幕を開ける。実際のヨハネ・パウロ2世(05年死去)の葬儀映像が使われた後、枢機卿が列をなして礼拝堂へ向かうフィクション映像へ変わる。うまい導入部だ。世界各国から集まった枢機卿たちは投票用紙に法王にふさわしい人物の名前を書き、投票箱に入れるのだが、責任の重大さに不安でいっぱい。彼らの気持ちを知らない民衆は礼拝堂を取り囲み、お祭り騒ぎで歴史的瞬間を待っている。

 なかなか票がまとまらず投票が繰り返され、本命を抑えて無名のメルヴィルが選ばれる。まったく心の準備していなかったメルヴィル。サン・ピエトロ大聖堂の広場を見下ろすバルコニーで、民衆へのスピーチを行うのが通例だが、大歓声を前におじけづく。

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 部屋に引きこもったメルヴィルをなんとか表舞台に立たせようと、バチカンの報道官は医師にメルヴィルを診断させるが異常は見つからない。報道官はセラピスト(ナンニ・モレッティ)を呼び寄せるが状況は変わらない。新法王の名が発表されないためマスコミも騒ぎ立て、ますます窮地に立たされるバチカン当局。しかし、厳重な警備のすきを突き、メルヴィルはローマの街へ逃げ出してしまう。

 一般に思い描かれる崇高な枢機卿たちを、一人の人間として風刺たっぷりに描く。新法王が決まればすべて他人任せになり、無責任な枢機卿たち。持て余した時間はバレーボールに興じ、「コーヒーを飲みに行きたい」、「展覧会を見に行きたい」と観光客気分まる出し。のん気なことを言い出す始末である。人々を導くはずの枢機卿は重責から逃げ出し、街で出会った様々な人々と交流する。

 しかし、最終的には予想されなかった言葉が重くのしかかってくる。軽い気持ちで作品を楽しんでいた観客は、メルヴィルの最後の言葉に我に返り、幕引きで思いがけず突き放される。戸惑いつつ不安と再び向き合う「迷える羊」となり、法王という存在を考え直すのだろう。

(文・藤枝正稔)

「ローマ法王の休日」(2011年、イタリア・フランス)

監督:ナンニ・モレッティ
出演:ミシェル・ピッコリ、ナンニ・モレッティ、イエルジー・スチュエル、レナート・スカルパ、マルゲリータ・ブイ

7月21日、TOHOシネマズシャンテ、新宿武蔵野館ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://romahouou.gaga.ne.jp/

作品写真:(C)Sacher Film . Fandango . Le Pacte . France 3 Cinema 2011
posted by 映画の森 at 11:11 | Comment(0) | TrackBack(0) | イタリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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