社会へのシニカルな視線──「金の味」
第17回釜山国際映画祭で上映されたイム・サンス監督の新作「金の味」は、1960年の名作「下女」をリメークした前作の「ハウスメイド」同様、上流階級の豪邸が舞台だ。女主人(ユン・ヨジョン)、婿入りした夫(ペク・ユンシク)、出戻りの娘(キム・ヒョジン)、秘書(キム・ガンウ)が繰り広げる、金と欲望をめぐる悲喜劇を描く。
5日の舞台あいさつにはイム監督とキム・ガンウ、キム・ヒョジンが登場。監督は「金」をテーマに据えたことについて「職業に貴賎(きせん)はないというが、実際にはあるのは自明のこと。他人に使われる職業の人は侮辱されやすい。『ハウスメイド』もそうだが、受けた侮辱がある一線を越えた時、人はどんな行動に出るのかを描いた」と説明。「ハウスメイド」よりも現実的なラストシーンにしようと努力したという。
キム・ガンウには、大先輩の女優ユン・ヨジョンとの“年の差ベッドシーン”にまつわる質問が相次いだ。恐らく何十回も聞かれているだろうこの質問に対し「男優なのにおどおどした態度を見せれば相手もやりにくいと思った。監督の指示に100%従った」と淡々と回想。監督の演出方法については「言い方が回りくどくて理解しにくい。(『ハウスメイド』の主演の)チョン・ドヨンさんも大変だったらしい」と観客を笑わせた。一方、撮影中に俳優で監督のユ・ジテと結婚したキム・ヒョジンは「新婚旅行にもまだ行っていないが、夫もイム監督のファンなので応援してくれた」と笑顔で話した。
監督自身の体験もとに──「二回の結婚式と一回の葬式」
プロデューサーとして数多くの映画を送り出すとともに、同性愛を描いた短編映画を演出してきたキム・チョ・グァンス監督の新作。主人公はレズビアンの女性と偽装結婚したゲイ青年だ。家族や同僚にカミングアウトせずに過ごしてきた青年が、ありのままの自分で生きようと決めるまでの葛藤が笑いと涙で描かれる。ゲイバーに集まるゲイ仲間たちに起こるリアルなエピソードや、彼らが差別や冷たい視線の中で自由に生きようとする姿は監督自身の体験や見聞がもとになっているという。
上映後には監督のほか、主人公の恋人役のソン・ヨンジン、主人公と偽装結婚した女性役のリュ・ヒョンギョンらキャスト6人が登場。観客から大きな拍手が起こった。
監督は製作意図について「これまでの韓国のクィア(セクシュアル・マイノリティー)映画のメッセージは『人を愛する気持ちは同性愛者も異性愛者も同じ』というものだった。だが同性愛者と異性愛者は、まさに同性を愛するという、その点で異なっている。それをこの作品で言いたかった」と説明。主人公の恋人、ソク役のソン・ヨンジンは「バイセクシュアルやトランスセクシュアルの役も経験済みで抵抗はなかった。監督の知人に会って話したりして役作りした」とエピソードを披露した。レズビアンで、愛する女性と暮らすために主人公と偽装結婚するヒョジンを演じたリュ・ヒョンギョンは「なぜ同性愛の映画に出たのかとよく聞かれるが、シナリオを読んでロマンチック・コメディーだと思ったから選んだ。同性愛の映画という意識はなかった」と屈託なく話した。
監督によると、製作費が足りなくなってラストシーンをアニメーションにせざるを得なかったという。しかし2組の同性カップルの穏やかな未来を描いたラストシーンは、同性愛者への差別が根強い韓国社会にも多様な人が生きて声を上げ始めていることを、観客に強くアピールした。
(文・芳賀恵 写真・芳賀恵&岩渕弘美)



