2011年の釜山国際映画祭で、司法界に立ち向かう男を描く「折れた矢」(アン・ソンギ主演)が好評だったチョン・ジヨン監督が、今年も釜山で社会派作品を発表した。「南営洞(ナミョンドン)1985」。軍事独裁政権下でひんぱんに行われていた反体制派への拷問を、正面から描いた問題作だ。初上映された10月6日はチョン監督とキャストが勢ぞろいし、観客とともにスクリーンを見守った。満員の会場は大きな拍手に包まれた。
時は1985年、舞台はソウル龍山区南営洞にあった「対共分室」。独裁政権を象徴する施設の一つだ。韓国は当時、共産主義者や北朝鮮のスパイを摘発する名目で反体制派を厳しく弾圧しており、多くの民主化運動家がここで拷問を受け、うその自白調書を取られた。そうした民主化運動家の一人、故・金槿泰(キム・グンテ)氏の手記をもとにしたのが「南営洞1985」である。同氏は85年に22日間の拷問を受け収監されたが、釈放後、96年に国会議員となり、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権下では保健福祉相に抜擢。昨年末に亡くなるまで民主統合党の常任顧問を務めていた。
当時は体に傷をつけて証拠を残さないよう、水や電気による拷問が主に行われていた。映画の中でこれでもかと繰り返される拷問シーンに、見ている側も息苦しさを感じずにはいられない。主人公が果てしない苦しみに耐えかね、強要されたストーリーを“自白”していく過程が胸に迫る。
チョン監督は拷問そのものの残酷さとともに、拷問する側の“人間的な”側面を描くことに力を注いだ。上司からの命令通りに拷問を実行する彼らは、主人公を足蹴にしながらプロ野球の試合の結果を気にしたり、恋愛に悩んだりと“人間らしい”姿を見せる。抑圧された社会が、普通の人々の神経もまひさせていく恐ろしさ。その中で次第に主人公に心を寄せていく者がいるのがわずかな救いだ。
同日開かれた記者会見でチョン監督は「撮り終わってからも重苦しい気持ちが残った。30年間の映画人生のなかでもっとも苦しかった」と振り返った。拷問を受ける主人公を熱演したのは、「折れた矢」の弁護士役のパク・ウォンサン。「撮影は楽ではなかったが、前作と同じ信頼できるスタッフが多かったので耐えられた。強い体に産んでくれた両親に感謝したい」と話した。唐辛子の粉を水に混ぜて口に注ぎ込むシーンについては「一番辛くない唐辛子を使ったので、なんとか我慢できた」と、笑えないエピソードを披露した。体制側の権力者として登場するイ・ギョンヨン、ミョン・ゲナムらベテラン俳優の悪らつな演技も見ものだ。現在、民主統合党の常任顧問を務める俳優ムン・ソングンも悪役で特別出演している。
12月に大統領選挙を控えているだけに、当然、製作側の政治的な意図も話題になった。ただ、このような映画が一般上映できる環境こそ、韓国社会が大きな犠牲を払って獲得したもの。「南営洞1985」は、その意味も考えさせてくれる作品だ。
(文・写真 芳賀恵)
写真1・3:記者会見、舞台あいさつした「南営洞1985」の出演者ら=韓国釜山市で6日
作品写真:釜山国際映画祭事務局提供



