砂漠の国、イエメンで「魚釣りがしたい」。イエメン大富豪の代理人でコンサルタントのハリエット(エミリー・ブラント)は、英水産学者ジョーンズ博士(ユアン・マクレガー)に対策を依頼する。ジョーンズは一蹴したものの、英外務省が中東との緊張緩和のため支援を決定。突飛な思いつきが立派な国家プロジェクトに急展開する──。
60歳の英小説家、ポール・トーディのデビュー作「イエメンで鮭釣りを」は、07年に出版されベストセラーに。彼の作品は主にメールやメモ、手紙で構成されているため、映像化は困難とされてきたが、「スラムドッグ$ミリオネア」のサイモン・ビューフォイが脚本化。「ギルバード・グレイプ」、「サイダーハウス・ルール」のラッセ・ハルストレム監督が演出した。
荒唐無稽な「砂漠にサケを泳がせて釣る」アイデアが、国家計画へ変貌する過程がコミカルに描かれる。小説の持ち味を映像に変換する工夫が随所になされる。登場人物がパソコンでメールを打つシーンでは、画面にかぶせるようにして書かれた文字を表示。電話のシーンは画面が二分割され、登場人物が隣り合わせで会話。インターネットのチャット(会話)は、文字をそのまま映し出す。ポップで楽しい映像表現が施されている。
ジョーンズは自称“変わり者”。オフィスの机に釣ざおを隠し、暇を見つけては振り回している。西田敏行が演じた「釣りバカ日誌」の主人公・浜崎伝助のようだが、演じるのが若いユアン・マクレガーだけに、スマートでかっこいい釣り好き学者となっている。そんなジョーンズも、妻メアリーとは冷め切った機械的な関係を続けている。
計画を依頼するハリエットの恋人は、中東に派遣された兵士ロバート。ところが「ロバートが戦闘で行方不明になった」と悲報が入る。仕事に手が付かなくなるハリエット。仕事上のパートナーだったハリエットとジョーンズは、心のすき間を埋めるように距離を縮める。二人の恋愛劇がサイドストーリーとしていろどりとなる。
舞台はロンドン、スコットランド、イエメンへと移り、計画は現地調査を経て着工に至る。依頼主の富豪ムハンマド(アマール・ワケド)は、人間味あふれる釣り人でもあった。釣りを通してムハンマドと親交を深めるジョーンズ。しかし、イエメンの西洋化に反対する過激派が、ムハンマドを暗殺しようとする。一方、ハリエットとジョーンズの恋も暗礁に。砂漠にはついに人工釣堀が完成するが、たたみかけるように次の事件が起きる。
荒唐無稽な計画を実現させようと奮闘する人々を、コミカルでドラマチックに描いたハルストレム監督。バランス感覚のある良質な作品に仕上がった。首相広報官役のクリスティン・スコット・トーマスが、物語のスパイスとなる脇役を好演している。
(文・藤枝正稔)
「砂漠でサーモン・フィッシング」(2011年、英国)
監督:ラッセ・ハルストレム
出演:ユアン・マクレガー、エミリー・ブラント、クリスティン・スコット・トーマス、アマール・ワケド、トム・マイソン
12月8日、丸の内ピカデリーほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
http://salmon.gaga.ne.jp/
作品写真:(C)2011 Yemen Distributions Ltd., BBC and The British Film Institute. All Rights Reserved.



