19世紀のアイルランド。モリソンズホテルでウェイターとして働くアルバート(グレン・クローズ)。人を避けてひっそり生活する彼は、40年以上誰にも言えない秘密を隠していた。貧しさから逃れるため男性として生きてきたが、実は女性だったのだ──。
グレン・クローズが82年に主演した舞台劇「アルバート・ノップス」(シモーネ・ベンムッサ作・演出)の映画化だ。クローズは製作、共同脚本、主演、主題歌の作詞と4役をこなし、構想30年の企画を実現した。監督にはクローズの出演作「彼女を見ればわかること」(00)、「美しい人」(05)のロドリゴ・ガルシアが務めた。
舞台は19世紀後半のアイルランド、ダブリン。貧困と飢餓に苦しむ時代に、仕事がない女性が一人生きるには、はかり知れない苦労があっただろう。職を失えば数週間で路上生活者になってしまう。アルバートは女であることを隠し、男として生きることを選択する。生まれてすぐに親に捨てられ、14歳でモリソンズホテルに住み込みの職を得て、誰にも知られず男として働いてきた。
そんなアルバートに転機が訪れる。ホテルが雇ったペンキ屋のヒューバート(ジャネット・マクティア)が、女主人の命令でアルバートの部屋に泊まることになったのだ。一つのベッドで眠ることになった二人。ところが、アルバートの胸元にノミが入り込み、服を脱いだ姿をヒューバートに見られてしまった。ホテルに知れれば解雇されると考えたアルバートは「秘密にして」と懇願する。さめた目でアルバートを見るヒューバートは聞き入れる。なぜなら、彼にも秘密があったから。
ヒューバートと出会い、アルバートは前向きになる。客からもらったチップを自室の床下にコツコツ貯め、その金を元手に町で小さなたばこ屋を開くことを夢見た。妻とつましく暮らすヒューバートを見習い、夢の実現にはパートナーが必要と考える。白羽の矢を立てたのが、同じホテルで働く若くてかわいい娘・ヘレン(ミア・ワシコウスカ)だった。
しかし、ヘレンはホテルのボイラー係・ジョー(アーロン・ジョンソン)と恋仲で、初老のアルバートなど眼中にない。ジョーに悪知恵を仕込まれたヘレンは、アルバートから小銭をせしめようと形だけの付き合いを始める。何度かデートを重ねるアルバートとヘレンだったが、プラトニックを貫くアルバートにヘレンは不思議な感情を抱く。そんなヘレンはジョーの子供を宿す。一方、ヘレンを残して町を出るとジョーは言い出し、事件が起きる。
偽りの人生を貫いてきたアルバート。友人と恋人ができたことで明るい光が差し込む同時に、ほころびも見え始める。他人に心を開いたばかりに人生は悲劇へ変わるが、物語は収まるべきところにすべてが収まり、きれいに幕が引かれる。グレン・クローズ、渾身の喜劇である。
(文・藤枝正稔)
「アルバート氏の人生」(2011年、アイルランド)
監督:ロドリゴ・ガルシア
出演:グレン・クローズ、ミア・ワシコウスカ、アーロン・ジョンソン、ジャネット・マクティア、ブレンダン・グリーソン
1月18日、TOHOシネマズシャンテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
http://albert-movie.com/
作品写真:(C)Morrison Films
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