2013年03月12日

「シャドー・ダンサー」 血で血を洗う北アイルランド紛争 息子を守るため、彼女は密告者になった

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 英国からの分離をめぐり、40年近く紛争が続いた北アイルランド。カトリック系とプロテスタント系住民が対立し、血で血を洗う武装闘争を繰り返した。現地に長く暮らした筆者の知人は言った。

 「普段はテロや暴力の存在は感じない。でもたまに、前の晩は確かにあった近所のビルが、翌朝には跡形もなくなっていたりする。それで気付くんだ。ああ、昨夜は爆弾テロが起きたんだなって」

 日ごろは息を潜めているテロリズム。映画「シャドー・ダンサー」は、文字通り“影のように”人々の間に入り込み、仲間や身内を密告するスパイを指す。

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 テロが頻発した1990年代。カトリック系武装組織IRA(アイルランド共和軍)の家庭に育ったコレット(アンドレア・ライズブロー)は、英ロンドンで起きた爆弾テロへの関与を疑われ逮捕される。MI5(英情報局保安部)の捜査官マック(クライブ・オーウェン)はコレットの幼い息子を盾に、スパイになるよう要求。コレットはやむなくIRAのテロ計画を英当局に流し始める。ところがしばらくして、IRAに別の大物スパイ=“シャドー・ダンサー”がいると気付く。正体を探るうち、衝撃の事実が明らかになる──。

 ニール・ジョーダン監督の「クライング・ゲーム」(1992)、ジム・シェリダン監督の「父の祈りを」(1993)など、繰り返し映画に描かれてきた北アイルランド紛争。家族を守るため、家族を密告する。組織を守るため、親兄弟の絆が引き裂かれる。母であり娘であるコレットも、血みどろの抗争に巻き込まれていく。

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 ベルファストの曇天のように重い現実。主演2人の好演が真実味を与える。オーウェンは笑顔を見せず、瞳に絶望をたたえている。ライズブローの透き通る肌には、精神的な疲れが浮かんでいる。彼女は撮影後、「あの苦しい時代を思い出しながら演じた」と話したという。

 3500人以上の命を奪った北アイルランド紛争。「シャドー・ダンサー」は暗く沈んだ過去を、苦味とともに振り返っている。

(文・遠海安)

「シャドー・ダンサー」(2012年、アイルランド・英)

監督:ジェームス・マーシュ
出演:アンドレア・ライズブロー、クライブ・オーウェン、ジリアン・アンダーソン、ブリッド・ブレナン

3月16日、シネスイッチ銀座ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://shadow-dancer.com/

作品写真:(c)Shadow Dancer Rights Limited / BBC / The British Film Institute / Wild Bunch 2012
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posted by 映画の森 at 00:23 | Comment(0) | TrackBack(0) | アイルランド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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