
ロシア・グルジア紛争の現場である南オセチアを舞台に、巨大ロボットの激突を描く「オーガストウォーズ」。ロシアのジャニック・ファイジエフ監督による戦争大作だ。
2008年夏。シングルマザーのクセーニア(スベトラーナ・イバーノブナ)は、息子チョーマと2人暮らし。チョーマは両親の離婚から逃げるように、空想世界で善悪のロボットを戦わせていた。一方、クセーニアは恋人との再婚を望むが、息子の存在が障害になる。そこへ軍人の元夫ザウール(エゴール・ベロエフ)から「子供に会いたい」と連絡が入る。
ザウールの居場所はグルジア国境・南オセチア。危険な紛争地域のため不安を抱くクセーニアだったが、「大統領は休暇中。衝突は起こらない」と判断。恋人とのバカンスを選び、息子を元夫のもとに送り出してしまう。しかし予想に反し、南オセチアにグルジア軍が侵攻する──。

ロボット戦争映画のように宣伝されているが、ふたを開ければ実際の紛争を背景に、息子を救うため孤軍奮闘する母を中心にした作品だ。ロボットはあくまでスパイス的な存在。恋愛に浮かれていたクセーニアは、息子の危機を知り一心不乱に動き出す。南オセチアに潜入後、乗り合いバスで村に向かうものの、グルジア軍のミサイルで車体は大破。救出に来たロシア軍指揮官リョーハ(マクシム・マトヴェーエフ)はクセーニアを引き止めるが、意思の強さに負けて途中の街まで送り届ける。
チョーマの空想世界を描いたオープニングは、CG(コンピューター・グラフィックス)アニメーションに実写をはめたように稚拙な仕上がり。逆にロボットは「トランスフォーマー」シリーズさながらの高品質CG映像。冒頭からのファンタジーとコメディーが混在した作風にも戸惑うが、クセーニアの潜入後は勢いが止まらない。バスの大破、逃げ込んだ建物の崩壊、車を襲う空爆の嵐。クセーニアは危険の連続を乗り越えていく。周りの人々が次々命を落とす中、リョーハに助けられ、強運を武器に走り続ける。

戦車、戦闘機、ヘリコプターなどの兵器は、ロシア軍の全面協力を受けて撮影。CG依存のハリウッド映画と一味違い生の迫力がある。さらに特殊映像はロシアのファンタジー大作「ナイト・ウォッチ」(04)のスタッフが作成した。CGロボットが大暴れする荒唐無稽の世界観。戦争アクションとSFがごった煮となった力強さ。その根底に流れる母の愛は普遍的で心動かされた。先入観をいい意味で裏切る快作だ。
(文・藤枝正稔)
「オーガストウォーズ」(2012年、ロシア)
監督:ジャニック・ファイジエフ
出演:スベトラーナ・イバーノブナ、エゴール・ベロエフ、マクシム・マトベーエフ
2013年8月10日、渋谷TOEIほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
http://www.augustwars.com/
作品写真:(C)2011 Glavkino. All Rights Reserved
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