
1936年、スペイン。共和制民主主義を掲げる人民戦線内閣に対し、軍が蜂起して内戦がぼっ発。内閣を支持する労働者、農民、知識人らに対し、保守派やカトリック教会は軍を支持する。衝突は市民を巻き込み、3年に渡る戦闘で数十万人が死亡。行き場を失った多くの人々が海を越え、メキシコに亡命した。
2007年。メキシコで“幻”と呼ばれた3つの箱が発見される。通称「メキシカン・スーツケース」。薄べったいボール箱の中には、写真のネガ約4500枚が眠っていた。撮影者は戦争写真家のロバート・キャパ、公私にわたるパートナーだったゲルダ・タロー、仲間のデビッド・シーモア“シム”。映っていたのは70年前、3人が見たスペイン内戦の現場だった。

ドキュメンタリー映画「メキシカン・スーツケース」は、写真家3人の足跡をたどり、戦いが残した傷と人々の苦しみを描く。
内戦の犠牲者が眠るスペインの共同墓地で、若い女性が地面を掘り返している。探しているのは亡くなった祖父の遺骨だ。スペインの人々は長く、隣人同士が銃を向け合った過去に口を閉ざしてきた。しかし70年を経た今、孫の世代が「内戦について知りたい」と声を上げ始めた。3人のフィルムは、その声を察したかのように現れた。
キャパ、タロー、シーモアは、それぞれハンガリー、ドイツ、ポーランド出身のユダヤ系移民だった。移住先のパリを経て、内戦が起きたスペインへ向かう。戦いの最前線で、混乱に巻き込まれる市街で、彼らのレンズがとらえたのは銃弾に傷つき倒れ、家族や家を失う人々の姿だった。

内戦に敗れた人民戦線側の市民は、国を追われてフランスに逃れる。やっとたどり着いた収容所でも、満足な食事も得られず、人間としての誇りは失われていく。絶望する人々に手を差し伸べたのは、海の向こうのメキシコ。亡命希望者を乗せた船には、キャパの助手を務めたチーキ・ヴァイスの姿があった。その手に握られていたのは、3人のフィルムを収めたボール箱だった──。
キャパら3人は、それぞれ別の戦場で命を落とした。彼らがこの世に残したフィルムは、場所や時代を問わず、変わらぬ戦争の現実を今に伝える。
(文・遠海安)
「メキシカン・スーツケース ロバート・キャパとスペイン内戦の真実」(2011年、スペイン・メキシコ)
監督:トリージャ・ジフ
2013年8月24日、新宿シネマカリテほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
http://www.m-s-capa.com/
作品写真:(C)212 Berlin/Mallerich Films Magnum Photos/International Center of Photography, NY
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