2013年09月11日

「ストラッター」 ロック魂と映画愛 挫折ロッカーの再生

ストラッター.jpg

 ガールフレンドにふられた。追い打ちをかけるように、バンドのメンバーに脱退を告げられた。恋とバンド活動。駆け出しロックンローラーのブレットにとっては、人生のすべてだったが、立て続けに失ってしまった。

 不幸のどん底に突き落とされたブレット。とりあえず、ガールフレンドを奪ったデイモンに殴り込みをかけようとするが、相手は憧れのミュージシャン。何も言えず、すごすごと引き返すしかなかった。

 ガールフレンドはあきらめた。観念したブレットは、手近な女友だちとデートする。しかし、お互い緊張のあまり泥酔。新しい恋へと発展することはなかった。

 要領が悪い。気が弱い。人がいい。ダメな男。だが、憎めない。家族や友人たちは、そんなブレットをほっておけない。恋敵のデイモンもブレットが気に入ったようだ。2人の間にはいつのまにか友情が芽生えていった。

 ブレットはしだいに立ち直っていく。そしてある日、母親の恋人であるミュージシャンのフランクに誘われ、デイモンとともに、伝説のロックンローラー、グラム・パーソンズを詣でる旅に出るのだった――。

 製作費2万5000ドルの低予算映画。しかし映像もサウンドもクオリティは超一級だ。ストリップショーでバンドが演奏するシーンをはじめ、敏捷なカメラワークと的確なカット割に、並外れたセンスが光る。監督は「ガス・フード・ロジング」(92)のアリソン・アンダースと、長年にわたり彼女とコンビを組んできたカート・ヴォス。数々のすぐれたロック映画を生み出してきたコンビが、今回も遺憾なくその実力を発揮している。

ストラッター2.jpg

 特筆すべきはブレッドをはじめ、デイモンも、フランクも、演じているのはすべて本物のミュージシャンだということ。劇中の曲も演奏も彼らのオリジナルである。監督のカート・ヴォスもミュージシャン。LA(ロサンゼルス)のロックシーンを代表する大物ミュージシャンが何人も登場するが、これもヴォス監督らの人脈だ。

 全8章で構成される作品。こんなエピソードがある。女友だちが働くクラシック専門の上映館で、サイレント映画を見ていたブレットが、おもむろに席を立つとオルガンで伴奏し始めるのだ。ミュージシャンの面目躍如である。しかも、この時映されるのが、“アメリカの恋人”と呼ばれた往年の大女優メアリー・ピックフォードの弟、ジャックの出演作なのだ。どうやらこのへんはアンダース監督の趣味らしい。

ストラッター3.jpg

 というわけで、コアなロックファンの心をわしづかみにすると同時に、映画マニアにも強くアピールする作品になっている。ロック魂と映画愛が一つに溶け合った作品とでもいおうか。

 劇中に登場するレコードショップ、サイレント映画、8ミリカメラ、そしてモノクロ映像。アナログ文化への傾倒も大きな特徴だ。章立ての構成は、LPレコード時代のコンセプト・アルバムを彷彿させる。A面の日常スケッチからB面のロードムービーへ。エンディング・ナンバーも完璧にキマっている。

(文・沢宮亘理)

「ストラッター」(2012年、米国)

監督:アリソン・アンダース、カート・ヴォス
出演:フラナリー・ランスフォード、ダンテ・ホワイト=アリアーノ、エリーズ・ホランダー、クレイグ・スターク

2013年9月14日、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://strutter-the-movie.com/


作品写真:(c)2012 Alison Anders and Kurt Voss
タグ:レビュー
posted by 映画の森 at 05:51 | Comment(0) | TrackBack(0) | 米国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。