君はハエに感情移入できるか。インド映画「マッキー」の見どころはずばり、主人公がCG(コンピューター・グラフィックス)で作られたハエであることだ。
物語は分かりやすい。貧乏青年のジャニ(ナーニ)が、向かいに住む美少女ビンドゥ(サマンサ・ルサ・プラブ)に恋をする。両想いになったのもつかの間、悪徳社長スディープ(スディープ)の横やりが。ジャニはスディーブに殺されるが、ハエとして生まれ変わる。愛するビンドゥを守り、憎きスディーブに復讐するため、ハエになったジャニは孤軍奮闘する──。
体調数ミリの小さなハエが、大スクリーンをところ狭しと飛び回る。ハエは言葉を話せない。身ぶり手ぶりで意志を表すほかない。自分がジャニの生まれ変わりだと伝えるため、あの手この手でビンドゥに思いを伝えようとする。机に落ちた水滴で文字を書いたり、スディープにまとわりついて困らせたり。リアルな造形とスピード感が素晴らしく、知らず知らず感情移入させられる。無表情のはずのハエに、喜怒哀楽があるように見えてくる。
VFX(視覚効果)を手がけたのは、インドのSFアクション大作「ロボット」(10)の製作チーム。インド映画史上最多のカットを費やし、実写の人間ドラマとCG(コンピューター・グラフィックス)のハエを融合させた。ハエの細部にいたる作り込み、視界360度を存分に使った空間描写。インドCG技術の底力を感じさせる。
インド南東部の言語・テルグ語映画であることも興味深い。多言語国家のインドでは、ヒンディー語、タミル語、テルグ語、マラヤーラム語など、地域ごとにさまざまな言葉で映画が作られている。「マッキー」のメガホンをとったのは、テルグ語映画界の人気監督S.S.ラージャマウリ。ハエの敵役スディーブを演じたのは、インド南西部・カンナダ語映画界のスター、スディープだ。ムンバイを中心としたいわゆる“ボリウッド”発のヒンディー語映画だけでなく、別言語の映画世界をのぞく意味でも興味深い。
ハエを相手に戦うスディーブは、悪役ながら滑稽で愛嬌すらある。あっけなく殺されてしまうナーニも、かわいらしく健気なサマンサも魅力的。観客を楽しませることではピカ一のインド映画が、サービス精神たっぷりに送り出す娯楽作だ。
(文・遠海安)
「マッキー」(2012年、インド)
監督:S.S.ラージャマウリ
出演:ナーニ、スディープ、サマンサ・ルサ・プラブ
2013年10月26日、TOHOシネマズ六本木ヒルズほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
http://masala-movie.com/makkhi/
作品写真:(c)M/s. VARAHI CHARANA CHITRAM
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