
1920年代、スペイン南部。国一番の人気を誇る闘牛士アントニオ(ダニエル・ヒメネス・カチョ)は、牛と格闘中に角で刺される。身重の妻はショックで出産。アントニオは全身に麻痺が残り、妻は娘の命と引き換えに亡くなる。
傷心のアントニオは娘カルメンシータを置き去りにし、意地悪なエンカルナ(マリベル・ベルドゥ)と再婚。天才闘牛士の血をひいた娘は祖母に引き取られ、美しい少女(マカレナ・ガルシア)に成長する。しかし、祖母の死で父親と継母の元へ──。

パブロ・ベルヘル原案、脚本、監督のスペイン映画「ブランカニエベス」は、グリム童話「白雪姫」をベースに、主人公を闘牛士に置き換えたダーク・ファンタジー。デジタル時代にあえて逆行するように、20年代に合わせて画面サイズはスタンダード(1.33:1)、モノクロ、台詞のないサイレントだ。
スクリーンを覆った幕が開き、映画が始まる。「スーパーマン」(78)と同じ手法で、ノスタルジックな印象だ。演出もサイレント映画そのもの。台詞がないため俳優は大げさな表情、動きで感情を伝える。そこへアルフォンゾ・デ・ヴィラロンガの雄弁な音楽が寄り添う。

「ブランカニエベス」はスペイン語で白雪姫。スペイン文化を代表する闘牛で始まり、両親の悲劇を経て主人公が生まれる。再婚で豪邸暮らしを手に入れた継母は、夫を開かずの間に閉じ込め、贅沢三昧の日々。カルメンシータも虐げられるが、父から闘牛の知識を伝授される。
後半は小人、毒りんご、ガラスの棺おけなど、白雪姫でおなじみのアイテムが登場。監督はグリム童話の世界を広げ、ダークな味を加え、極上の大人の寓話に仕上げている。意欲的な作品だ。
(文・藤枝正稔)
「ブランカニエベス」(2012年、スペイン・フランス)
監督:パブロ・ベルヘル
出演:マリベル・ベルドゥ、ダニエル・ヒメネス・カチョ、アンヘラ・モリーナ、マカレナ・ガルシア、ソフィア・オリア
2013年12月7日、新宿武蔵野館ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
http://blancanieves-espacesarou.com/
作品写真:(C)2011 Arcadia Motion Pictures SL, Nix Films AIE, Sisifo Films AIE, The Kraken Films AIE, Noodles Production, Arte France Cinema