2014年01月24日

「オンリー・ゴッド」 ゴズリング×レフン監督 バンコクの闇 暴力の連鎖 衝撃の復讐劇

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 カンヌ国際映画祭で監督賞を獲得した「ドライヴ」(11)のニコラス・ウィンディング・レフン監督とライアン・ゴズリングが、再びタッグ組んだ復讐劇「オンリー・ゴッド」。舞台はタイの首都バンコク。デンマーク、フランス合作にもかかわらず、タイトル、キャスト、スタッフはすべてタイ文字で表示され、異色の雰囲気漂う作品だ。

 バンコクでボクシング・クラブを経営するジュリアン(ライアン・ゴズリング)。兄のビリーが売春婦を殺したことで、負の連鎖が始まった。売春婦の父親がビリーを惨殺する。そこへ元警官のチャン(ヴィタヤ・パンスリンガム)が現れ、「神の代わりの裁きだ」と父親の右手首を切り落とす。父親は娘に売春させ、復讐で人殺しまでしたからだ。

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 一方、ジュリアンは兄を殺した相手に報復するため、売春婦の父親の居場所を突き止める。さらに溺愛するビリーの死を知り、兄弟の母クリスタル(クリスティン・スコット・トーマス)が米国からタイへ来る。ビリー殺害現場にチャンがいたことを突き止め、自ら刺客を雇って報復を狙う。

 「ドライヴ」の成功で注目されたデンマーク出身のレフン監督。台詞は少なく、スローモーションを多用したクールな語り口。限界を越えた凄惨な暴力描写。最初は個々の対立だったが、クリスタルの登場でチャンや警察を巻き込む壮絶な弔い合戦に発展する。

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 犯罪映画の一つの完成形だった「ドライヴ」から、さらなる進化が確認できる。赤と青が基調の照明、完璧なカメラアングル。イメージショットのようなスロー映像と効果音。観客の脳に映像を焼き付ける。静と動を巧みに使い分けた演出は「2001年宇宙の旅」(68)のスタンリー・キューブリック監督、「ブルーベルベット」(86)のデビッド・リンチ監督に通じる斬新な手法。ホラー映画的でもある。

 特に異彩を放つのがチャンだ。自らを「神の使い」と信じ、罪を犯した者に容赦なく制裁を与える。暴力で人を支配する男だが、突然クラブのステージに立ち、部下の前で歌を披露する。シュールなシーンと対比される暴力描写。そんなチャンと敵対するクリスタル。文芸作品が得意なクリスティン・スコット・トーマスが、復讐にとりつかれた下品な女を好演する。

 ギリシャ神話を思わせる報復劇。自分を神の使いと信じて暴力で支配するチャンの世界に、ジュリアンが放り込まれ、さまよい続ける物語だ。極限まで台詞を削り、独創的な映像美で想像力を刺激。作品世界を俯瞰で見るような、一歩引いた演出に圧倒される。レフン監督とゴズリング、新たなる衝撃作である。

(文・藤枝正稔)

「オンリー・ゴッド」(2013年、デンマーク・フランス)

監督:ニコラス・ウィンディング・レフン
出演:ライアン・ゴズリング、クリスティン・スコット・トーマス、ビタヤ・パンスリンガム、ラター・ポーガーム、ゴードン・ブラウン

2014年1月25日(土)、新宿バルト9ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://onlygod-movie.com/

作品写真:(C)2012 : Space Rocket Nation, Gaumont & Wild Bunch

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posted by 映画の森 at 08:54 | Comment(0) | TrackBack(0) | デンマーク | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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