インドの新人女性監督、ガウリ・シンデーの長編デビュー作「マダム・イン・ニューヨーク」。派手なアクション、歌やダンスが印象的なインド映画に対する固定観念を覆し、主婦の自立と成長を描いた温かいドラマだ。
主人公のシャシには1970〜90年代に活躍し、「インド映画史100年国民投票」女優部門1位を獲得したシュリデヴィ。97年の結婚を機に引退状態だったが、15年ぶりにカムバックした。夫のサディシュには「ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日」(12)のアディル・フセイン。飛行機でシャシと隣り合わせた乗客役で、国民投票男優部門1位に輝いた大スター、アミターブ・バッチャンが特別出演している。
インドの主婦シャシ(シュリデヴィ)は英語が話せず、家族から馬鹿にされてコンプレックスを抱えていた。ところが姪の結婚式を手伝うため、家族を残して一人ニューヨークへ行くことになる。不安いっぱいで飛行機に乗り込んだが、隣席の優しい乗客(バッチャン)の助けで楽しく過ごす。
しかし、到着したニューヨークでは異国での洗礼を受ける。立ち寄ったカフェで英語が通じず、高圧的で意地悪な女性店員にいじめられ、シャシは買った品物を置いて店から逃げ出してしまう。落ち込んだシャシの目に飛び込んだのは、英会話学校の広告「4週間で英語が話せる」だった──。
平凡な主婦が異国で自我を確立し、覚醒していく。どこまでも温かい作品だ。ニューヨークで孤独だったシャシは、英会話学校で自分と同じように異国から来た仲間たちと出会う。多民族が暮らす街でシャシは居場所を見つけ、仲間と英語を学ぶうち、女性としてのプライドと自信を取り戻す。
妻であり母であるシャシは、ニューヨークでさまざまな体験をする。フランス人のクラスメートとの淡いロマンスも経験。家族に尽くすばかりだったシャシが、大人の女性として一皮むける。姪の結婚式で披露される感動的なスピーチ。言葉の壁を乗り越え、目覚めた姿がそこに凝縮している。
インド菓子の“ラドゥ”を小道具として効果的に使いながら、インド映画恒例のダンスで締めくくる。初メガホンと思えぬバランス感覚で、主人公の揺れ動く内面を丁寧に描き出した監督。シュリデヴィの繊細な演技と、監督が「実母をイメージして」書いた脚本が相まり、母への思いがこもる珠玉の1本となった。
(文・藤枝正稔)
「マダム・イン・ニューヨーク」(2012年、インド)
監督:ガウリ・シンデー
出演:シュリデヴィ、アディル・フセイン、アミターブ・バッチャン、メーディ・ネブー、プリヤ・アーナンド
2014年6月28日(土)、シネスイッチ銀座ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
http://madame.ayapro.ne.jp/
作品写真:(C)Eros International Ltd