2014年09月26日

「聖者たちの食卓」 インド5000人の無料食堂 「すべての人に平等に」

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 石臼で小麦を挽く、挽き上がった小麦粉を丸める、薄く引き伸ばす、チャパティ(薄焼きパン)に焼き上げる。挽く人から、丸める人、引き伸ばす人、焼き上げる人へ。流れ作業に乗って完成し、食堂へと運ばれる。普通の食堂ではない。5000人もの人々が一堂に会して食事する巨大な“無料食堂”だ。

 インド北西部、パキスタンとの国境近くにある都市アムリトサル。ここにシク教の聖地である黄金寺院(ハリマンディル・サーヒブ)がある。無料食堂は、寺院で500年前にスタートした給食制度だそうだ。「すべての人々は平等である」というシク教の教義に基づき、人種、宗教、年齢、性別を問わず、希望する人に無料で食事が供される。

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 チャパティのほか、カレーなど数種のメニューがワンプレートに盛りつけられて1人前。これを一度に5000人分作る。食事が済んだら直ちに片付け、次の食事を用意。それを延々と繰り返す。1日最大10万食が提供されるというから、まさに目の回るような回転率である。

 丸めた小麦粉を容器に放り込む。汚れた食器をバケツに投げ込む。そのスピードとコントロールに舌を巻く。熟達の技というのだろうか。食後の床は幅広のモップを使い、これも敏捷な動きで手際よくふき清める。日本の新幹線の清掃サービスが海外で評判だが、決して負けていない。

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 映画を見る前は“炊き出し”のようなものを想像していたが、まったく違った。高度にシステム化され、衛生面への配慮も万全なのだ。

 こんなことがどうして可能なのだろう。無償で働いているスタッフたちは、どうモチベーションを保っているのだろうか。お布施だけで運営できるのだろうか。映し出される人々の邪心が感じられない献身的な姿を見ていると、そんな疑問をいだくこと自体が馬鹿馬鹿しくなってくる、

 世界を席巻するファストフード文化に対する、壮大なアンチテーゼのようにも思える「聖者たちの食卓」。人間の生きる根本である食のあり方、ひいては人類が共生していく道についても、深く考えさせてくれるドキュメンタリーである。

(文・沢宮亘理)

「聖者たちの食卓」(2011年、ベルギー)

監督:フィリップ・ウィチュス、ヴァレリー・ベルト

2014年9月27日(土)、渋谷アップリンクほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.uplink.co.jp/seijya/

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posted by 映画の森 at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | ベルギー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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