2014年12月19日

「エレナの惑い」家族の絆、戸惑いと葛藤 女性心理掘り下げ

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 ベネチア国際映画祭金獅子賞(最高賞)を獲得した「父、帰る」(03)のロシア人監督、アンドレイ・ズビャギンツェフ監督の「エレナの惑い」(11)。同監督の「ヴェラの祈り」(07)とともに同時公開される。

 モスクワ。初老の実業家ウラジミル(アンドレイ・スミルノフ)は高級マンションに住んでいる。夜明けとともに妻エレナ(ナジェジダ・マルキナ)が目を覚ます。身支度すると夫を起こし、手際よく朝食の準備をする。10年前、ウラジミルは入院先の病院で看護師のエレナと知り合い、2年前に結婚した。

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 二人は再婚同士だった。エレナは前夫との間に無職の息子のセルゲイ(アルクセイ・ロズィン)がいる。妻や高校生の息子がいるにもかかわらず、エレナの年金を頼りに暮らしていた。ウラジミルの一人娘カテリナ(エレナ・リャドワ)は仕事をせず、気ままな遊興生活を送り、父と疎遠になっていた。

 セルゲイは母エレナに、息子の大学裏口入学資金の援助まで求める。相談されたウラジミルは断るが、心臓発作を起こし車いす生活に。その後、娘カテリナとの関係は改善し「全財産を譲る」と言い始める。夫の一方的な態度に釈然としないエレナは、ある計画を思いつく──。

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 再婚で裕福になったエレナと、極貧をさまよう息子家族。現在の生活と息子の幸せ。エレナは狭間で迷う。監督は両極にある家族を対比させながら、女性の心理を丁寧に掘り下げ、その行動の是非を観客に問いかける。

 シーンの半分以上はエレナと夫が住む高級マンション、息子セルゲイが住む古びた狭いアパートで展開する。暗いイメージとして枯れ木にとまるカラス、鳴き声が挿入される。観客は不吉な予感を抱く。現代音楽の一種、ミニマル・ミュージックの第一人者、フィリップ・グラスの交響曲が緊張感と切迫感を生み出す。

 家族の絆に戸惑い葛藤し、その先に見える皮肉な光景。エレナのしたたかさ、いびつな幸せ。緻密に計算された作品だ。

(文・藤枝正稔)

「エレナの惑い」(2011年、ロシア)

監督:アンドレイ・ズビャギンツェフ
出演:ナジェジダ・マルキナ、アンドレイ・スミルノフ

2014年12月20日(土)、ユーロスペースほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.ivc-tokyo.co.jp/elenavera/
posted by 映画の森 at 08:58 | Comment(0) | TrackBack(1) | ロシア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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ロシア、ある女性の決断
Excerpt: 23日のことですが、映画「エレナの惑い」を鑑賞しました。 実業家ウラジミルと再婚した元看護師のエレナはモスクワの高級マンションで何不自由なく穏やかな生活を送っていた。 だがお互い前の結婚で生まれた子..
Weblog: 笑う社会人の生活
Tracked: 2015-04-02 23:52
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