
英国映画界を代表する名匠、ケン・ローチ監督最新作「ジミー、野を駆ける伝説」が公開中だ。1930年代のアイルランドを舞台に、自由を求めた実在の活動家、ジミー・グラルトンの半生を描いた作品。主演のバリー・ウォードは「監督は想像よりはるかに素晴らしい人だった」と語った。
アイルランド独立戦争と内戦を描いてカンヌ国際映画祭パルムドール(最高賞)を受賞した「麦の穂をゆらす風」(06)など、社会派作品で知られるローチ監督。最新作で取り上げたのは、歴史に埋もれた名もなき活動家だった。村に「ホール(集会所)」を開いて人々に自由の尊さを説き、教会に糾弾されて国を追われた男。ウォードによると「ジミーはアイルランドでもほとんど無名だった」という。

「知られているのは唯一『米国へ追放された』こと。地元のアイルランド西部(リートリム州)で親せき、子孫によって横顔が語り継がれてきた。だから(演じたジミー像は)ある意味想像の産物でもある。監督が描きたいのはどんな人物か。あの時代に活動家として生きるのはどんなことか。自分で考えながら作り上げていった」
ジミー同様、ウォードもほぼ無名の俳優だった。初めてのローチ作品が初主演映画になったが、不安はなかったという。「私自身ローチ監督の作品を見て育ち、人生を通してファンだった。だから絶大な信頼があった」。監督は「手には野良仕事でできた『たこ』があってほしい」と求めた。ダブリン郊外の町育ちのウォードは、ジミーが生きた現場に出向き、農民の畑仕事を手伝った。撮影中の監督は決して高圧的ではなく、俳優を望む方向に「押しやり、雰囲気や役に乗せていく」ように感じたそうだ。

「ジミーは左翼の活動家だが、優しさと人間味を描くことも大事だった。ダンスと音楽で人生を祝い、楽しむ。人々が喜ぶのを見るのも好きだった。地元で直接彼を知る人たちから思い出を聞いた。追放された米国から手紙とお金を送り、みんなに『パーティーを開け』と伝えてきたそうだ。子供好きで温かい人だった」
監督への揺るぎない信頼、丁寧なキャラクター作りが、誠実で温かいジミー像に結実した。ただ、印象的なダンスのシーンに触れると、突然手で顔を覆い、恥ずかしそうに机に突っ伏した。「本当にダンスが苦手。何カ月も、何度も練習しなければだめだった。たいして難しくないのに(笑)」
自分にとって「英雄」だったローチ監督に導かれ、監督が求める「英雄」を演じた。完成した作品を見て、改めて感じたことをは──。
「よく『自分のヒーローに会ってみたらがっかりした』という話を聞きますね。私は逆に監督を過小評価していた。想像をはるかに上回る素晴らしい人だった。出演して最も驚き、印象に残ったことです」
(文・写真 遠海安)
「ジミー、野を駆ける伝説」(2014年、英国)
監督:ケン・ローチ
出演:バリー・ウォード、シモーヌ・カービー、ジム・ノートン、フランシス・マギー、アシュリン・フランシオーシ
2015年1月17日(土)、新宿ピカデリー&ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
http://www.jimmy-densetsu.jp/
作品写真:(C)Sixteen Jimmy Limited, Why Not Productions, Wild Bunch, Element Pictures, France 2 Cinema,Channel Four Television Corporation, the British Film Institute and Bord Scannan na hEireann/the Irish Film Board 2014
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