2015年02月01日

「おみおくりの作法」ウベルト・パゾリーニ監督に聞く「すべての人生に、等しく価値がある」

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 孤独死した人々を一人弔う男性を通じ、生と死への向き合い方を問う英国・イタリア合作映画「おみおくりの作法」が公開中だ。ベネチア国際映画祭オリゾンティ部門監督賞など、世界各地の映画祭で高く評価された作品。ウベルト・パゾリーニ監督は「死者は社会で最大の弱者。すべての人生に等しく価値がある」と語った。

 英ロンドン南部。地域公務員で民生係のジョン・メイ(エディ・マーサン)の仕事は、誰にも看取られず亡くなった人々の葬儀を行うことだ。生前の写真を見つけ、宗教を特定し、弔辞を書く。葬儀にふさわしい音楽を選び、故人の知人を探して招待する。監督は死者を「社会で最大の弱者だ」と位置づける。

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 「映画では一人で死ぬこととともに、社会で一人ぼっちで生きることに触れた。本人の意に反して、孤独に生きることが許されている。そこに悲劇がある。政府は人間が共同体、世界の一員であることを伝えていない。個人主義を奨励しすぎた結果だ」

 ジョンの丁寧な作業には、死者への敬意が表れている。生活は質素で規則正しい。事務机は整えられ、派手さはない。口数はきわめて少ないが、身なりや立ち居ふるまいから誠実さが伝わる。ジョンが探し出す遺品や写真から、故人の生前の姿が浮かび上がる。

 「彼はほぼ私自身といっていい。細部へのこだわり、執着は残念ながら私に似た(笑)。一方で、心がとても広いキャラクターでもある。他者への愛情が強く、人間の価値を理解し、払うべき尊厳を大切にしている。私自身が欠けている一面をあえて与えた」

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 ところが、上司はジョンのやり方を「無駄が多い」と決め付け、解雇を言い渡す。最後の案件となったのは、奇しくもジョンの自宅アパートの向かいに住む男性だった。男性の人生を追い、ジョンは英国中を旅する。故人を知る人々に会い、訃報を伝える。人々との出会いで新たな何かを得ていく。最後に待ち受けていたのは、ジョンが見送ってきた人々からの「最大の贈り物」だった。

 「私たちは聖人ではないが、姿勢として他者を思うことが大切だ。大切なのは税金をいくら払えるかではなく、いかに社会的弱者と歩めるか。自分の死が他者にもたらす影響に目を向けるべきだ。人生には不条理でシュールなことも、おかしみやユーモアもある。ジョンは仕事を通じ、すべての人生に等しく価値があることを伝えてくれるんだ」

(文・写真 遠海安)

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「おみおくりの作法」(2014年、英・伊)

監督:ウベルト・パゾリーニ
出演:エディ・マーサン、ジョアンヌ・フロガット、カレン・ドルーリー、アンドリュー・バカン、キアラン・マッキンタイア

2015年1月24日(土)、シネスイッチ銀座ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://bitters.co.jp/omiokuri/

作品写真:(C)Exponential (Still Life) Limited 2012

posted by 映画の森 at 08:56 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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