2015年09月24日

「草原の実験」一瞬で壊される夢と幸せ カザフスタンの実話をもとに

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 広大な草原に囲まれた粗末な一軒家に、若い娘と父親が暮らしている。父親は毎朝トラックを運転し、どこかに出かけていく。軍関連施設に勤務しているようだ。娘は父親を見送ると、家でひとり父親の帰りを待つ。壁に貼られた世界地図に遠い外国への憧れをかきたてられつつも、平穏な毎日に不満はなさそうだ。

 近隣に住む幼なじみの青年は、娘に好意を抱いている。そしてよそからやってきた金髪の青年もまた、娘に一目ぼれしてしまう。二人の青年に愛され、娘の心は大きく揺れる。

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 ある日、父親が突如として病に倒れる。その夜、軍用トラックでやってきた男たちは、雷雨の中で父親を裸にし、ガイガーカウンターを当てる。激しい警告音とともに、カウンターの針が大きく振れる。

 映画の序盤に、プロペラ機で軍人が降り立ち、父親が操縦のまねごとをする場面がある。軍人という記号のせいだろう。一見ユーモラスなこの場面に、微かな不安が宿っている。その不安は、雷雨の場面に至って不吉な予感へと変わる。すでに平穏な暮らしは崩壊しかかっている。娘は金髪の青年との恋愛で危機を切り抜けようとするが、運命の歯車を止めることはできない。

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 男と女として結ばれた二人は、未来へ向かって歩き出そうとする。しかし次の瞬間、恐ろしい衝撃が襲う。喜びも夢も幸福も、すべてを一瞬にして消滅させる、まるでこの世の終りのような、すさまじい映像と音。心の底から震撼させられる。

 旧ソ連時代のカザフスタンで起きた実話をもとにした物語。セリフを一切排し、俳優に表情と動作だけで演技させたことが画面に緊迫感を与え、異様な迫力を生み出している。アップ、ロング、俯瞰など、多様なサイズ、アングルのショットを、テンポよく組み立てた構成も巧みで緊張が途切れない。映像の力を思い知らされる作品だ。

(文・沢宮亘理)

「草原の実験」(2014年、ロシア)

監督:アレクサンドル・コット
出演:エレーナ・アン、ダニーラ・ラッソマーヒン、カリーム・パカチャコーフ、ナリンマン・ベクブラートフーアレシェフ

2015年9月26日(土)、シアター・イメージフォーラムほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://sogennojikken.com/


作品写真:(C)Igor Tolstunov’s Film Production Company


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posted by 映画の森 at 09:25 | Comment(0) | TrackBack(0) | ロシア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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