
韓国刑事アクション映画「ベテラン」が2015年12月12日(土)公開される。「シティ・オブ・バイオレンス 相棒」(06)などアクション作品にこだわってきたリュ・スンワン監督の最新作だ。財閥御曹司と熱血刑事の対決を軸に、社会風刺を散りばめた勧善懲悪劇。リュ監督は「私にとって映画の本質はアクション。初めて映画を観た時から変わりません」と語った。
世界を舞台にしたスパイ大作「ベルリンファイル」(13)から一転、今回は地元ソウルで泥臭い刑事の孤軍奮闘を描いた。主人公はファン・ジョンミン演じるソ・ドチョルら、ソウル警察の刑事5人。対するはユ・アイン演じる財閥御曹司のチョ・テオだ。
財力と権力を振りかざし、横暴の限りを尽くすチョ。昨年末の大韓航空「ナッツリターン事件」(14年末)も記憶に新しい中、韓国では観客約1340万人を動員した。リアルな描写は実際の事件を思わせる。撮影前、監督は綿密な調査を重ねたという。
「特定の事件を連想させる事実が含まれているのは確かですが、どこまで事実かは明かせません。実際の人物がヒントにもなりましたが、ドキュメンタリー映画ではありません。観客は実際の事件を連想し、映画の主人公が敵に立ち向かう姿に共感したのでしょう。この映画をヒーローものと思って来た若い人たちが、観た後に社会問題について討論するようになりました。いい現象だと思います」

ファン・ジョンミンの魅力「語るには朝までかかる」
そんな観客の共感を集めたのが、ファン演じる「ベテラン」刑事だろう。人情味にあふれる熱血漢で、出世は遠いが家族を愛し、仕事に心血を注ぐ。大ヒット作「国際市場で逢いましょう」(14)では、激動の戦後を生き抜いた一人の父を演じたファン。今回は真っ直ぐで正義を愛する男をリアルに演じている。監督はファンに惜しみない賛辞を送る。
「いい俳優である以前にいい人。彼の一番の長所だと思います。現場に作品を『一緒に作る』気持ちで来てくれる。スターなのにスタッフと肩を組めるような俳優なんです」

終盤にソウル中心部の繁華街・明洞でカーチェイスが繰り広げられる。リュ監督は大規模なロケ撮影を振り返り、主人公のソ・ドチョルについて「完全にファンを想定して脚本を書きました。彼に出演を断られたら、映画は成立しませんでした」と話した。
「都心のど真ん中で、交通規制も必要でした。どうしても撮りたかったので、管轄の警察署長を説得する必要がありました。そこへファンが『一緒に行く』と言ってくれたんです。彼が警察に顔を出した途端、事がスムーズに進みました。責任感が強く、自分より相手が引き立つことを好む人。彼の素晴らしさを話し始めたら、朝までかかってしまいますよ」

「恋人が視線を交わすのも、雪が降るのもアクションに見える」
監督得意のアクションは今回も全開だ。明洞でのカーチェイスのほか、序盤の釜山港での大規模ロケーション撮影も見どころ。ストレートな犯罪映画だけに、立ち回りの爽快感も際立つ。リュ監督といえばアクション。こだわりは幼いころに始まった。
「私は文字を学ぶ前から映画に触れ、中でも香港の武術映画に熱狂しました。初めて観た映画は(韓国のチョン・チャンファ監督が香港で撮った)『死の五本指』(72)。5歳でした。生まれて初めての映画がアクションだったのです。その後もメロドラマ、犯罪もの、コメディーなどたくさん観てきたけれど、私の目にはすべてアクションに見える。つまり私にとって、映画の本質はアクション。動くイメージなのです」
監督のアクションへの思いは、とめどなくあふれる。初めての映画体験から現在に至るまで、映画への情熱は変わらないようだ。
「暗闇の大スクリーンに人が映し出され、動きながら物語を紡いでいく。そのことに私は感情を揺さぶられました。恋人が視線を交わすのも、孤独な男が道を歩くのも、雪が美しく降るのも、私にはすべてアクションに見える。敵味方が戦うことを超えた地点に、私のアクションはある。私にとって映画は文字通り『活動写真』なのです」
(文・写真 遠海安)
「ベテラン」(2015年、韓国)
監督:リュ・スンワン
出演:ファン・ジョンミン、ユ・アイン、ユ・ヘジン、オ・ダルス、チャン・ユンジュ
2015年12月12日(土)、シネマート新宿ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
http://veteran-movie.jp/
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