2016年03月11日

「母よ、」母と娘の最後の交流 ナンニ・モレッティ監督自伝的映画

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 難航する映画の撮影。元夫と暮らす娘の教育。同居していた恋人との別れ。死期が迫る母親の看病。いくつもの難題を抱え、どれからも逃れられないヒロインの心の危機が描かれる。

 映画監督であり、娘であり、母親であり、一人の女性でもある主人公のマルゲリータ。しかし、どの面から見ても及第点にはほど遠い現実が、彼女を苦しめ、いら立たせている。

 マルゲリータの神経を最もかき乱しているのが、米国から招いた主演俳優のバリーだ。言うことなすこと、いちいちエキセントリックで、しかもセリフの覚えが悪いのだ。何度も何度もNGを出しては現場を困らせる。失敗しても反省はなく、脚本に八つ当たり。身勝手なふるまいに翻弄され、疲労が限界に達したマルゲリータは、しばしば悪夢にうなされベッドで飛び起きる。

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 実はバリーの不調には理由があった。マルゲリータがそれを知ったことで、2人の間の壁が崩れる瞬間が感動的だ。バリーとの和解はマルゲリータにとって現状打破の契機となり、娘や母との関係を修復するためのステップにもなる。その意味でバリーの存在意義は大きい。粗野に見えるが内面は繊細。複雑なキャラクターをジョン・タトゥーロが絶妙に演じている。

 物語のベースとなっているのは、監督のナンニ・モレッティ自身が体験した実母の死だ。自伝的な作品といえるが、主人公を女性監督に設定した分、事実との間に距離が生じ、普遍的なドラマへ昇華している。

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 マルゲリータにとってかけがえのない存在である母。なのに自分は母のことを何も知らず、母のために何もしてこなかった。最期の時を迎えようとしている今でさえ、何もしてやれないでいる――。仕事や生活に忙殺される中、母親と十分な時間を過ごすことができないまま死別した。同じ経験を持つ者であれば、ヒロインの言動、表情が心の琴線に触れてくるに違いない。

(文・沢宮亘理)

「母よ、」(2015年、イタリア・フランス)

監督:ナンニ・モレッティ
出演:マルゲリータ・ブイ、ジョン・タトゥーロ、ナンニ・モレッティ、ジュリア・ラッツァリーニ

2016年3月12日(土)、Bunkamuraル・シネマ、新宿シネマカリテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.hahayo-movie.com/


作品写真:(c)Sacher Film . Fandango . Le Pacte . ARTE France Cinéma 2015
posted by 映画の森 at 06:54 | Comment(0) | TrackBack(0) | イタリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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