
イタリアの巨匠、ルキーノ・ヴィスコンティが「地獄に堕ちた勇者ども」(69)「ベニスに死す」(71)に続いて完成させた“ドイツ三部作”の最終作である。
1864年、18歳の若さでバイエルン国王に即位したルートヴィヒ2世は、国政を顧みることなく、芸術に耽溺する日々を送っていた。関心のあるのは、心酔する作曲家ワーグナーの作品を上演する劇場を建設すること、そして自分のロマンティックな空想を壮麗な城として具現化することだけ。いずれも莫大な予算を要し、国家財政を疲弊させていた。
そんなルートヴィヒの心を占めるものがもう一つあった。それは美しい従姉のエリザベート王妃だ。人目を忍んで逢瀬を重ねるが、しょせんかなわぬ恋。エリザベートへの恋心は封印し、彼女の妹を妻に迎える。しかし、エリザベートを忘れることはできず、結婚生活はほどなく破綻。その後、ルートヴィヒは社会に背を向け、隠遁生活に入る。

前半は、ルートヴィヒとエリザベートとの危なげな関係が焦点の一つとなっている。ルートヴィヒの思いを半ば受け止め、半ばそらすような微妙な距離感で、結果的に男の純情をもてあそぶエリザベート。エロティックだが決して下品ではない。挑発的だがみだらではない。抗(あらが)いがたい魅力でルートヴィヒを虜にする王妃に、ロミー・シュナイダーが扮し、絶品の演技を見せる。
後半は外部との接触を断ち、孤独で退廃的な生活を送るルートヴィヒが、しだいに精神に異常をきたし、破滅へと向かっていく姿が描かれる。男色に耽り、歯が抜け、美青年の面影を失っていくルートヴィヒ。演じるは、実生活でヴィスコンティ監督と恋愛関係にあったともされるヘルムート・バーガー。その姿を見つめるカメラは、ヴィスコンティの視線そのものでもあったろう。
完ぺき主義のヴィスコンティらしく、全編ロケ撮影という贅沢さ。ワーグナーの荘厳かつ官能的な音楽をバックに、絢爛たる映像が構築されている。
今回上映されるのは、初公開時に大幅カットされた部分を復元した4時間バージョン。デジタル修復により本来の映像美もよみがえり、ヴィスコンティの世界が堪能できる。
本作は「ヴィスコンティと美しき男たち」と銘打った特集上映の1本として、アラン・ドロン主演の「山猫 4K 修復版」(1963)と同時公開される。
(文・沢宮亘理)
「ルートヴィヒ デジタル修復版」(1972年、伊・仏・西独)
監督:ルキーノ・ヴィスコンティ
出演:ヘルムート・バーガー、ロミー・シュナイダー、トレヴァー・ハワード
2016年5月14日(土)、YEBISU GARDEN CINEMAほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
https://www.facebook.com/visconti110/
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